日本の成長企業

自分が得意なことをやればいい。 日本人起業家がシリコンバレーで感じた大切なこと│柴田 尚樹 氏(後編)

SearchMan
Co-Founder 柴田尚樹 氏 (Naoki Shibata, Ph.D.)

1981年生まれ。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略専攻 博士課程修了。2006年に楽天株式会社入社。同社の最年少執行役員、東京大学助教を経て、スタンフォード大学の客員研究員として渡米。米国Paypal出身のDave McClure氏が設立したファンド「500Startups」の出資を受け、シリコンバレーにて起業。現在、SearchManのCo-Founderとして、「App Discovery」の問題解決に取り組む。

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柴田さんは、自分の役割をどこに見出していますか。

僕は今でもコードを書いていますが、すべてをやっているわけではありません。

  • 0から時速10キロまで持っていくのが得意な人
  • 10キロから60キロまで持っていくのが得意な人
  • 60キロから100キロまで持っていくのが得意な人
  • 時速100キロのまま安定走行させるのが得意な人

は、それぞれ違うと思います。僕は明らかに「0から10の人」です。10以降は、できません(笑)。というか、そのあとは僕より上手にできる人がいることを知っているんですね。

とはいえ、僕は必ずしもプロダクトのプロトタイプばかり作っているわけではなく、既存プロダクトの中で、「ここを変えよう」といった時に、最初に手を付けるのは僕です。そしてその変更について、10まで持っていったらあとは人に任せます。

うちにはかなり腕利きのエンジニアたちがいますが、それでも0から10は僕に任せてもらっているので、そこは割と、シリコンバレーでも通用するのだと思いますね。

ただ、これはもう、性格の問題だと思います。僕は、どっちがいいとか悪いとか言うつもりは全然ありません。

たまに起業志向の学生から相談を受けるのですが、「起業家ばかりがすごいわけじゃないんだ」という話を、よくします。エンジニアの中でも、僕のようなタイプがいていいと思いますし、Opsと呼ばれるインフラエンジニアも非常に重要です。

人間には向き不向きがあり、性格によりますから、それに沿っていることは大切だと思います。Opsの人たちは、だいたい懐の深いお父さんのような人だったりします。「俺に任せておけ、サーバーを落とさないで、全部守ってやるから」というような。その人たちが、起業家や、0から10を得意とするエンジニアに比べて劣るとは全く思いません。本当に、向き不向きの問題だと思います。

自分のことをよく分かっているかどうかで、個人としても、組織としても、成長スピードが大きく変わってきそうですね。

まさに、そうです。シリコンバレーに来て痛感したのは、自分自身に、不得意分野がたくさんあるということです。日本にいた頃は、ちやほやしてもらっていたので(笑)、何でもできるような気がしていたのですが、言葉が自分の母国語ではない本当のアウェーに来たことで、自分がダメな部分が良くわかりました。

ダメな部分がわかると、逆に、得意なこともクリアになってくるんですよね、これが。「これで生きていくんだ。この領域は僕のものだ」ということに気付けたことが、最大の収穫でした。

本当の得意不得意は、20歳を過ぎるとあまり変わらないと思うんですよね。ひょっとしたら小学生ぐらいから変わらないかもしれません。小学校時代のクラスメイトを思い出してみてください。スタートアップやっているような人は大体、やんちゃないたずら好きか、ひねくれ者ですから(笑)。会社のステージや役割を含めて、自分が一番フィットするところを探すことが大切だと思います。

シリコンバレーの良いところ、悪いところを挙げるとしたらどのような点ですか。

シリコンバレーのすごさを一言でいうと、「世界で最もハングリーで賢い移民を受け入れて、ビジネスをさせている」ところにあると思います。誤解を恐れずに言えば、世界中から才能がある人を「輸入」しているんです。非常にシンプルですが、これだけです。この地でのアメリカンドリームは、宝くじに当たることではなく、スタートアップをやって、当たったらキャピタルゲインがあるということです。街中でそのギャンブルをやっている、そんな感じです。

ただ、シリコンバレーの悪いところも、もちろんあります。物事がとにかく、ショートタームです。「10年、20年待って育てよう」ということはほとんどありません。

アマゾンのような会社は、シリコンバレーにあったら今のようになっていなかったかもしれません。あれだけ長く、大きな赤字を出し続ければ、たいていの投資家(VC)は我慢できません。KPCBのジョン・ドーアだったからよかったものの、普通のVCであれば「いい加減にしろ」という話だったと思います。

それに、人件費も高いですね。何しろみんなハングリーで、お金へのこだわりは強いです。これについては、提供する付加価値と、リスクとリターンの関係ですから、必ずしも悪いことだとは思いませんが、人を採用するのは大変です。いいところも、悪いところも両面あると思いますよ。

できたてのスタートアップは、キャッシュはそんなに払えませんが、その代わりにストックオプションが厚い。一方、GoogleやYahooといった上場企業で働くことは、単純化すると、キャッシュが100で、株が0です。22歳の独身男性であればスタートアップのリスクをとることができますが、35歳で3人の子持ちなら、そうはいかない、そんな感じです。この町に住むということは、そういうことです。当たらないかもしれませんが、当たったら大きなキャピタルゲインがあることをみんな分かってやっています。そこはみんな計算していますね。

イグジットも、IPOだけではなく、バイアウトであるケースも多いですよね。

そうですね。アメリカの場合、上場したあとの株主からのプレッシャーが非常に強いので、規模的には上場できる会社でも「この会社はあと30年残ってもいい会社なのか」をみんな考えています。社会にとって、上場企業として残ったほうがいいのか、それともどこか大企業の一部になったほうがいいのか。後者の方が良いと判断したら、会社を売却しますね。

シリコンバレーでなくても、日本でできることが十分にあると思いますか。

十分にあると思います。必ずしもシリコンバレーでなければならないとは思いません。ありがちなのは、シリコンバレーでやっているものの、実は、売上のほとんどが日本市場を対象としているというケースですね。そうなると少しつらいと思います。それなら、東京でやった方がいい気がしますね。

一方、「Tokyo Otaku Mode」という、日本のオタク文化を世界に発信しているスタートアップがありますが、彼ら自身は日本にいるものの、ほとんどのユーザーは海外です。むしろ、こういうグローバル展開は大いにありだと思いますね。

それに、僕もシリコンバレーでやってみて気づいたのですが、自分では10個あると思っていた強みのうち、9個はグローバルの競争において全く強みと言えるものではなく、通用するものは1個しかないことが分かりました。僕はその1個が見つかったから良かったのですが、それが見つからないと、シリコンバレーに来たところで何も起こりません。ただ負けて帰るだけなので、それなら行かないほうがいいという気はします。

500Startupsにも、最近外国の会社が多いのでいろいろ見ていますが、外国人が、外国に住んで、外国で働くということは大変なことです。特にビザが大変です。当然、アメリカ政府はアメリカ人の雇用を守りたいわけですから、基本的には「アメリカ人ではできない仕事」ができる人にしかビザは出ません。要は、「助っ人」でなければならず、かつ、それを証明できなければならないということです。

ここから先は、ビジネスパーソンのキャリアについて、ヒントになるようなことをお聞きしたいと思っています。

「何でも完璧な人になろうとしないほうが良いのではないか」ということですね。先ほどもお伝えした通り、性格や自分の特技があると思うので、それに合うところを探すというのが一番大切だと思います。そう思いませんか?

日本のエンジニアの例でよくあるのが、これまでいいソースコードを書いていた人でも、あるところまでいくとマネジャーにならなければいけない、というようなことが起こります。人のマネジが得意な人はそれをやればいいですが、そうでない人は、コードを書き続けた方が、本人にとっても会社にとっても、きっと良いでしょう。まず、自分の得意不得意を理解して、得意なところで活躍したほうがいい。これは、必ずしもエンジニアに限らず、そうではないでしょうか。

自分の得意不得意を理解するコツはありますか。

僕は、「やっていて楽しいかどうか」に尽きると思っています。仕事にはつらいこともありますし、100%はできないかもしれませんが、それでも、楽しいことを仕事にするに越したことはありません。楽しいことは、やはり自分が得意なことである可能性が高いですから。

そうはいっても、自分が好きなものを見つけるのも簡単ではないかもしれません。そういう時にお勧めなのは、とにかく二択にすることです。先のことなどわかりませんから、迷ったらできるだけ単純な二択問題を作って、「直感で、より幸せになれそうな方を思い切って選ぶ」ことをお勧めします。

というのも、細かいことは後からでも修正できるのですが、大きな方向は後からは変えにくいからです。よって、とにかくA or B。Aだと思ったら、Aに進み、そこでまた、A or B。これに尽きます。

僕の場合、就職活動で周りはみんなコンサルティングファームや投資銀行に行きましたが、僕はインターネットでした。シンプルな二択にして、「こっち」だと。詳しい理由は忘れました(笑)。でも、おそらく、合っていたと思いますよ。

二択に持ち込むというのは、キャリアを考えるうえで有効ですね。

キャリアは、複雑に考えすぎると動けなくなります。敢えて二択にすることで、選べるようになるのではないでしょうか。

僕の日本的感覚からすると、アメリカ人は人生を長期的にきちんと考えていない人が日本人よりも多い気がします。卒業するまで就職活動をしない人もたくさんいますし。それでもなんとかなると思ってやっています。

日本人も、もっと自由になったほうがいいです。この先どうなるか分からないので、自分にきちんと実力があれば、我慢なんかしないほうがいい。嫌だったら転職すればいいと思いますよ、本当に。違う会社に行ったら、何かありますよ、きっと。そうして二択を続けていったら、最後はあるところまで行き着きます。最悪、駄目だったら戻ればいいんです。

最後にぜひ、メッセージをお願いします。

自分にとって、Comfortableな場所を見つけるとよいと思います。

それは、決して生暖かいComfortableのことではありません。自分がありたい姿に向けて成長していくことも含めて、Comfortableだということです。

何か新しいことを始めたり、チャレンジしたりすることだけが偉いとは思いません。守ることも重要な仕事であり、それがComfortableで、自分にとっての成長だという人もたくさんいると思います。それは素晴らしいことだと思います。

そういう僕も、以前は「何でもできる」と勘違いをしていましたが、シリコンバレーに来て自分を理解したことで、肩の荷も下りました。CEOを張らなくてもいいし、CTOだと名乗らなくてもいい。苦手なことに、無理をしなくていいんだと分かったのです。ある意味、本当に救われました。

既成概念にとらわれ過ぎることや、完璧主義に陥るのはもったいないと思います。好きなことが一つでも見つかれば十分です。超ハッピーです(笑)。二択をやり続けていると、どこかで近づいてきます。早く見つかる人もいれば、見つからない人もいると思いますが、やり続ければ先が見えてくるはずです。

それと、「逃げる勇気」とでもいうのでしょうか。ダメだと思ったら、退散する勇気が結構大切だと感じます。もちろん大切な義理を欠くことは避けるべきですが、完璧でなければならないと考えるのではなく、間違えたら戻ればいい。自分が思うほど、周りの人は自分のことを気にしていないですから(笑)。僕自身も、かっこいい話ではありません。AppGroovesから逃げたことで、SearchManに行き当たったのですから。

柴田 尚樹氏へのインタビュー記事

・シリコンバレーの起業家が語る「これからのエンジニア」|柴田 尚樹 氏(前編)
・シリコンバレーの起業家が語る「これからのエンジニア」|柴田 尚樹 氏(後編)

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