日本の成長企業

メルカリが徹底してプロダクトにこだわる理由

株式会社メルカリ
代表取締役社長 山田進太郎 氏

早稲田大学在学中に、楽天株式会社にて「楽オク」の立上げなどを経験。大学卒業後、ウノウ設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネットサービスを立上げる。2010年、ウノウを米ソーシャルゲーム大手のZynga(ジンガ)に売却。2012年にZyngaを退き、世界一周旅行を経て、株式会社メルカリ(旧・コウゾウ)を設立。2013年7月フリマアプリ「メルカリ」をリリース。TVCMを展開し、1年で国内500万ダウンロードを突破。月間流通額は数十億円となり、日本最大のフリマアプリへ成長。更に2014年9月iOSとAndroidにてアメリカ版サービスをローンチし、「US版メルカリ」は、テスト段階より順調な立ち上がりを見せ、すでに1日の出品数は数千品を超えている。

どのような経緯でメルカリにたどり着いたのでしょうか?

大学卒業後に設立した、ウノウという会社のミッションは、「世界で使われるインターネット・サービスを創る」というものでした。フォトシェアリングのサービスに加えて、ソーシャルゲームがうまくいきまして、利益もかなり出ていました。

ただ、当初の思いの世界進出には「かなり時間がかかるだろうな」という感覚を持っていました。ですから、米国大手のZyngaから買収の話があった時には、「Zyngaのパブリッシング力を使ってやる方が、単独でやるより世界に近い」と判断しました。

「会社としての独立性」と「ミッション」を天秤にかけて、ミッションを選んだということです。実際、世界を目指して1年半ぐらいいろいろとやりましたが、このまま続けても難しいという状況になり、Zyngaを離れました。

起業してからはそれなりにハードに働きましたし、またすぐに起業するとなると大好きな旅行ができなくなると考えたので、このタイミングで、ということで世界一周に出ることにしました。それまでもアジアの国々にはほぼ全て行きましたが、2012年は「行きたい場所に、全部行こう」ということで、リストアップしたところを線でつないで、一周してきました。

帰国後に会社をやることは決めていましたが、旅先でビジネスモデルを思いついたというよりも、とにかく「世界中で使われるものやりたい」という思いを再確認した感じです。幸い、一つ目のメルカリがうまく立ち上がったので、これに集中してメルカリで世界に行くことに絞っています。

フリマアプリというアイデア自体は、以前から温めていたのですか。

メルカリは、商品を出品する個人と、買い手という個人を直接繋ぐC2Cサービスです。

僕自身は、これまで一貫してネットサービスの立ち上げをやってきましたので、C2Cという「非常にインターネットらしい」ことをやるというのは自然な流れでした。世界的には、「捨てるよりも誰かに使ってもらいたい」、「必要としている人が居るなら、譲りたい」という流れが出てきています。本当は捨てる方が楽なのかもしれませんが、人に譲って使ってもらうという「シェアエコノミー」です。

今後は、そういうものがもっと重要になり、必然的に増えていくと思います。米国のAirbnbやUberなどもそういう流れの中にあると思っています。それに、これからは途上国も含めてスマートフォンがもっと普及するので、ネットのスピードやユーザーのリテラシーの高い日本からスタートして「世界に出られるもの」として最適なものを選択しました。

一貫して「世界で使われる」ことにこだわりを持っているのはなぜでしょうか

僕は帰国子女でも何でもなく、ずっと愛知県で育って、大学に入るときに上京して、卒業後もフリーランスのように働いていたので、初めて外国に長期で行ったのは27歳のころです。英語も大して話せませんでしたが、アメリカに対して強い憧れがあったので1年間行ってみました。

そこで知り合った人と一緒にレストランを出店するという話しになり、物件を見たりして具体的に動きました。その途上で、「このレストランをやるからには、進太郎と私でお店に立つんだよね」と言われたときに、「確かにそりゃそうだ。だけど、僕がやりたいのはそういうことじゃないんだ」と気づきました。

僕は当時、『映画生活』という映画のレビューサイトを運営していました。月間100万人ぐらいの人が来てコメントしていくようなサイトです。でも、レストランをやると、多分、数千人が限界です。そう思ったときに、「僕がやりたいのは、たとえ間接的であっても、より多くの人にサービスを利用してもらうことなんだ」、「ネットサービスなら、世界を目指せる」と気づきました。

それで目が醒めて帰国し、ウノウを起業しました。最初は漠とした思いと憧れでアメリカに行きましたが、そのことによって、何がしたいのかがクリアになりました。ウノウはZyngaに売却しましたが、その後も「世界中で使われるものをつくる」という思いにブレはないので、とにかくプロダクトを作って、それをより多くの人に使ってもらおうと思っています。それを誰が作ったと言う必要もないし、どれだけ儲かるかも後から付いてくるものなので、そんなに重要視せずに、「とにかく、より多くの人に」と考えています。

僕としては、ユーザーベースが大きいことが大きなモチベーションになっています。理想としては、世界中に莫大な数のユーザーがいるSkypeのようなサービスを作りたいです。Googleのように大きな売上にならなくても、「世界中のみんなが知っていて、世界中のみんなに使われている」、という状態を作り出したいのです。

山田さんは、徹底的にプロダクトに重きを置いていますね。

完全に、プロダクト重視です。例えば、Googleは世界で最初の検索エンジンだったわけではないですし、Facebookが最初のソーシャルネットワークだったわけでもありません。結局、最終的に明暗を分けるのは「プロダクトの質」だと思っています。

だからこそ、「最高のプロダクトを作るチームをいかに作るか」が重要で、それがあるからこそ、資金調達や人材採用、マーケティングといった勝負ができるわけです。やはり、GoogleもFacebookも、今うまくいっているところは、創業者が相当プロダクトにコミットしてやっているところだと思います。逆に、あまり経営っぽい、マネジメントっぽいことに行くとよくないと思っています。

僕は、イーロンマスクの言葉が好きなんです。「素晴らしい製品も持たずに素晴らしい企業になろうとしている人々がいるのに、いつも驚かされます。起業家にとって最も重要なのは、卓越した製品や、サービスを生み出すのに集中することです。」という言葉です。

僕も立ち上げ後の半年ぐらいは、とにかくプロダクトを作ることしかしていないし、今、半分くらいはアメリカにいますが、いまも細かい仕様を作るところまでやっています。

僕がプロダクトにこだわるのは、人々の人生を本当に変える力があるし、歴史を変えることさえできるからです。たとえば、Skypeがあったことによって人生が変わった人はたくさんいると思います。遠距離恋愛で、もしかしたら別れていたかもしれないカップルが、Skypeがあったおかげで結婚するといったことも起こり得ます。こういう、人生を変えるようなプロダクトを作るほうが、僕にとっては大切です。

会社を大きくして、買収して、また大きくするといった体験は、望んでいません。自分が有名になりたいというのもありません。本当によいものは、プロダクトが先行していて、社長が誰かというのはそんなに重要ではないと思っています。SkypeiPhoneのユーザーがみんな、創業者の名前を知っているわけではないのと同じです。

メルカリ 代表取締役社長 山田進太郎氏のインタビュー後編を読む≫

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