コイニー株式会社
代表取締役社長 佐俣奈緒子 氏
1983年、広島県出身。2009年より米国PayPalの日本法人立ち上げに参画。加盟店向けのマーケティングを担当し、日本のオンラインサービス/ECショップへPayPalの導入を促進。2011年10月にペイパルジャパンを退職後、2012年3月にコイニーを創業。創業から1年半で約14億円の資金を調達。モバイル決済市場の確立を目指す。
既存の金融プレーヤーとの利害調整が難しそうですね。iTunesを作ることに近いというか。
iTunesがすごかったのは、新しい流通経路に、既存プレーヤーのコンテンツを乗せたことだと思いますが、Coineyも近いチャレンジをしています。よくお店のレジで見るカードリーダーは、カード会社が共同出資して作ったようなものです。
そのような現状に対して、「私たちのようなサードパーティーの端末経由で決済を通してください」、ということですから大変です。要所要所で変わるルールに翻弄されながら、リーダーは4回、接続仕様も2回変えています。着手した時にはまだルールがなかったので、これでいけると思って作り始めたのですが、ルールがどんどん変わっていったので、それに合わせて行かざるを得ませんでした。
いわゆるウェブサービスや、モバイルアプリを自由に作っている人たちを傍目で見ると、「自分たちで自由に作って、Appleの承認が出れば、世に問えるというのを、うらやましく思っていました。
既存プレーヤーだと参入が難しく、新規参入者でなければできないビジネスとも言えそうですね。
おっしゃるとおりで、既存のプレーヤーはしがらみが多くて動けないことも多分にあり、そこに勝機があると考えています。金融サービスは概して、新規のプレイヤーが登場し、既存プレイヤーと共存するということがおこります。
例えば、店舗型の証券会社とオンライン証券の関係がそうです。オンライン証券という方法論が出てきたときに、既存の証券会社が体力にものを言わせて勝ってもおかしくはありませんでしたが、結局それは実現しませんでした。あれは、既存プレーヤーのしがらみなのです。窓口で高い手数料を取っていたものを、オンラインになったからといって、かんたんに安くすることはできません。
オンラインバンキングと既存のメガバンクの関係にも近い部分があるかと思います。要するに、新しいものを提供するときに、既存のアセットが必ずしも優位にならないということがあり得るのです。私たちが向き合っている市場もまさに同様の状態です。既存のオンライン決済のプレーヤーというのは、手数料を一律にして、審査を早めて提供すると、必ず既存ビジネスに問題が起こります。
そこで、私たちのようにしがらみのないプレーヤーが出て行って、市場を取れる余地があるということです。
約1年半で14億円の資金調達。この資金はどのような意味を持っていますか?
大きな金額ですが、通帳の数字でしか見ていないので、リアリティがあるわけではありません。ただ、強い焦燥感があります。これをうまく使いこなすために、私自身の成長が追いつかないといけないわけで、必死で走っている状態だと思っています。
だからこそ、私個人ではなく、チームとしてそれができるように陣容を強化したいと思っています。これまで使ったことがない金額のお金を使い、仲間を集めながら、正しく投資し、プロダクトを作っていくことは本当に難しいことだとわかっているつもりです。
しかし、考えすぎて動かないわけにも行きませんから、とにかく動いていろいろなことをやりつつ、大きなベクトルがずれないよう、正しい方向に向かっていくしかないと思います。
今後の展開をどう考えていますか?モバイル決済に特化するのか、他の可能性もあり得るのか。
他の可能性もあり得ます。あくまでもお金のやりとりにウエイトを置くつもりなので、現在はクレジットカードのみに対応していますが、電子マネーやポイントカードにもビジネスチャンスがあるかもしれませんし、オンライン決済の方にも可能性があるかもしれません。
それに、今は加盟店向けにサービスを提供していますが、個人のウォレット側に行く可能性もありますし、そもそもカードリーダーがなくても決済できるように認証するという方向性もあると思います。狙っている市場が極めて大きい以上、いろんなアプローチがあるわけですが、ただ、今はまず一つに集中したいと考えています。
これからどのようなチームを作っていきたいと思いますか?
最初は全員、ものが作れる人で、その後も、エンジニア、デザイナーを中心に採用してきた経緯があるので、直近までエンジニアとデザイナーが8割という組織構成でした。ようやく最近、「売れる」フェイズになってきて、ビジネスサイドが増えつつあるというのが現状です。
非常に作るものが多い会社なので、エンジニアやデザイナーなどものづくりの強さは維持したいと思っています。アプリケーションも、ウェブアプリがあり、iOSがあり、アンドロイドがあります。タブレットもモバイルもあります。
それに、ハードウェアと金融インフラがあります。全体への目配りは求められますが、自ずと細分化されていきますから、横のコミュニケーションがしっかり取れる人がいいですね。コミュニケーション能力という意味で、人ときちんと話ができたり、あるいは全社を俯瞰して、「ここが足りないね」といって、「自ら手を動かせるかどうか」は、大事になってきていると思います。
「足りないという指摘」だけではなく、そこを自分で埋めに行ってくれるような人は、特にビジネスサイドにおいては、重要な役割になってきます。「自走する」という言葉を最近よく使っていますが、「自分で考えて、自分で動ける人」がいいですね。
現在のメンバーの国籍はバラバラでして、アメリカ、ブラジル、アイスランド、インドネシア、ウクライナ、スペインなど、幅広いです。第一フェイズとしては日本市場がターゲットになりますが、いざ海外に出るときに、日本人だけのチームでやってもなかなかうまくいかないだろうと思いまして、であれば最初からインターナショナルなチームにしておいた方がいい、という想いが設立当初はあったのです。
ただ、実際いいエンジニアや、いいデザイナーを探し始めると、たまたま優秀で、かつ会社のカルチャーに合うのが必ずしも日本人ではなかったという感じで、それほど強く国籍を意識しているわけではありません。公用語はあくまで日本語ですし、かえって過度に言語を意識しない環境といえます。
もともと佐俣さんは、どういうふうに育ってこられたのですか。
私は広島出身なのですが、父親はゼネコンに就職して定年まで勤め上げた人で、母親は専業主婦です。いわゆる日本の高度経済成長期によくあったパターンの家庭だろうと思います。「自立しろ」というメッセージが親から強くあって、「何かに迎合するよりも、意志があるなら、人と違っても躊躇するな」という教育を受けてきました。
高校時代にアメリカに留学したことも含め、子どもが自分で「やりたい」と言ったことは、反対しないという方針で、ピアノや英語など、頭や体に残ることには積極的に投資をしてもらったと思っています。最近になって、こういう教育の部分が生きてきているのではないかと思うようになりました。そして、「迷ったら、希少性がある方を選ぶ」ということを自分のルールにしていて、多くの人が行かない道に賭けると決めています。
新卒でPayPalに入社したのは、PayPalはかなりシニアなチームであり、20代でこのチームの一員になることが私にとって希少な選択肢だったからです。今、私がCoineyというチャレンジをしていることも、きっとこれまでの両親の教育方針と、強く関係しているのではないかと思います。
最後にメッセージをお願いします。
Coineyは非常に大きなものを目指しています。決済に関わっている以上、1兆円や10兆円といった決済総額に持って行きたいですし、その過程で、もっと日本の金融インフラに絡んでいけるチャンスもあるのではないかと思います。
幸い良き理解者、支援者に恵まれ、チャレンジできるだけの資金もあります。「大きなことをやりたい」と思っている人には、大いに応えられるのではないかと思っています。エンジニア、デザイナーといった方はもちろんのこと、ビジネスサイドの方にとっても、チャレンジングな環境だと思います。
意外と小さなチームでやっている今なら、本当にスタートアップの感覚を味わいながら、大きなものを目指せます。ぜひ、一緒に高いところを目指しませんか。