株式会社スマートエデュケーション
代表取締役 池谷大吾 氏
明治大学大学院理工学研究科修士課程修了後、2000年日本ヒューレットパッカードに入社。大手携帯キャリアの基幹システムの開発プロジェクトに従事。2004年にサイバーエージェントグループ(シーエー・モバイル)に参画し、公式サイト、SNS、ソーシャルアプリといった 数多くのモバイルメディアの企画開発を経験。執行役員、取締役、子会社社長を経て、2011年スマートエデュケーションを創業。
スマートエデュケーションの事業について、教えてください。
国内向けの「こどもモード」とグローバル向けの「Gocco(ごっこ)」の二つのブランドで知育アプリを提供しています。中でも「こどもモード おやこリズムえほん」や、「Gocco しょうぼうしゃ」など、多くの親子ユーザーに楽しんでいただいています。最近人気なのはこどもモードの、「おやこでリズムあそび」です。子供たちに絶大な人気のある、NHK・Eテレの「おかあさんといっしょ」や「みいつけた!」を含め、このアプリで楽器遊びや演奏が楽しめます。
おやこでリズムあそび」はEテレの人気番組から親子で曲を選べる
「おやこでリズムあそび」は、上の楽器は保護者、下の楽器は子どもが担当し、親子で一緒にプレイ
子どもの「知育」はタブレットやアプリを使った方が有効なのでしょうか?
知育にITを持ち込むというと、「タブレットやアプリの使い方を教えるのですか」と聞かれることがありますが、ゴールが違うのです。ITはあくまでも道具にすぎず、あくまでも思考能力や行動力を養うことが目的で、そのための最適な道具として、もっと良いものがあるのでは、と思っています。
例えば乳幼児の家庭には、小さなスピーカーと電池が内蔵された「音の出る絵本」がよくありますよね。ですが、音質が良くありません。人間の知能が最も成長するといわれる0~6歳の時に、このような品質のもの与えるべきなのかと私は問題意識を持っていました。
そのような考えのもと、開発したのが「こどもモード おやこでリズムえほん」です。この音楽系知育アプリに出てくる音は、全て本物の楽器から収録し、高音質のまま再生されます。
また、曲が随時追加されるのもITならではの良さです。このアプリをきっかけに、多くの子どもたちが、さまざまな音楽や楽器に興味を持ち、実際に演奏にチャレンジしてくれるようになると嬉しいですね。
対象は未就学児。つまり、小学校に上がる前の子どもですね。
そうです。そこは明確にターゲティングしています。理由は2つありまして、
1つめは、「さわると反応する」というスマートデバイスが、一番影響を与えられる年代として、未就学児が一番インパクトが大きい。
2つめは、グローバル展開のしやすさ。未就学児は言語への依存度が低いので、日本発で世界中に使われる可能性がたかい。
ということです。
1点目は、まさに自分自身の原体験です。自分の子どもがスマホで遊ぶようになったことが起業のきっかけでしたが、イノベーションを考えると、未就学児が一番いいなと思うのです。
やはりさわって反応してという、子どもが一番成長する時期に直感的に応答するメディアは便利ですので、一番イノベーションが起きやすいだろうということです。それに、実際の「変えやすさ」という点も大切です。
小学校以上は義務教育の領域に入ってしまうので、国や地方自治体が相手になってしまいます。この義務教育をベンチャーが変えるには、時間がかかりすぎる気がします。
一方で、未就学児が通う幼稚園や保育園はほとんどが私立ですので、「タブレット端末を導入しましょう」という提案も、通っていきやすいのです。
2点目の、グローバル展開ですが、未就学児は言語への依存が低い世界です。もちろん歌や絵本はありますが、例えば『はらぺこあおむし』という絵本は世界中でベストセラーです。
世界を言葉要らずで攻められる、いわゆるLEGOみたいな世界です。私らの目指しているのは、そういうディズニーとかLEGOといった、「遊びから学ぶ」領域ですから、敢えて上の年代を狙う必要はないのです。
世界中の子どもがターゲットとなると、非常に大きな市場ですね。
それに、子どもの領域には、「定番」があり得るのも魅力です。絵本の売り上げランキングは、この20年間ほぼ不動です。1位は『いないないばあ』、2番目は『はらぺこあおむし』、といったように、10番目くらいまではずっと変わっていません。
それぐらい保守的な市場なのです。一人ひとりの子どもはどんどん大きくなりますが、ほとんどの子どもが必ず幼少期にふれる「定番」を作り出すことの価値は大きいということです。
絵本と違って、スマートデバイスやアプリの領域ではまだその定番が定まっていませんから、世界でそれを狙うのは非常にチャレンジングなことだといえます。
課金方法を変更されたそうですね。
元々、コンテンツごとに課金をしていましたが、それを月額課金に変更しました。スマホのゲームであればアイテム課金がメインですが、教育はそもそも長期にわたって安定的にやるべき事業であり、ゲームとは全く異なります。
大学や専門学校だけでなく、ベネッセや公文を見ても、ほとんどが月額課金制です。子どもたちが興味を示して、どんどん遊びながら学んでいきたいのに、課金がネックで止めざるを得ないというのは残念ですから。親御さんに、安心して使ってもらえるというのは非常に大切な要素です。
ただ、これは経営的には結構思い切った決断でした。上図がユーザー数の推移なのですが、コンテンツごとの課金(従量課金)から、月額課金に切り替えたことで、最初、業績が一気に落ちました。
一時はどうなることかと思ったのですが、徐々に反転し始めて、現在では月額課金で安定軌道に乗っています。大きな決断でしたが、これでますます腰を据えて、本質的なことに取り組めるようになったと思っています。
子どもが直感的に操作できるアプリを作るのは、技術的にもハードルが高いですか?
まさにそうなのです。プロデュース力と技術力の両方を併せ持っていないといけない事業なのです。例えば、音楽を使ったゲーム、いわゆる「音ゲー」を作る場合、音符が流れてきてパンとたたくのですが、音楽と絵の表示を合わせるのは結構難しいのです。
すぐにずれてしまったりします。少しでも音と表示がずれてしまうと、音ゲーは違和感の塊です。このタイミングを合わせるのは、私たちが持っている独特の技術です。「手間のかかるものをよく作れるね」と言われることが多いのですが、「普通にやると、結構大変ですよ」という感じです(笑)。
海外向けのサービスについてもぜひ教えてください。
これが、海外向けブランド「Gocco(ごっこ)」の「らくがキッズ」です。まさに、未就学児向けで、言語がほとんど出てこないユニバーサルなものです。
全世界の子ども達が自分の力作を投稿できる「Gocco らくがキッズ」
ゼロから絵を描いてくださいといってもなかなか難しいので、ちょっとネタを提供してあげましょう、というアプリです。「ライオンの顔のようなもの」や「赤い車」を材料として置いておくと、子供たちはみんな好き勝手に書いていきます。
子どもの絵の特徴なのですが、写実的に描くのではなく、ストーリーを描くんですよ。朝起きて、トイレに行って、お母さんとお話ししてとかというのをどんどん絵に描くので、レイヤーで重なっていってしまうのです。できあがったものを見ると、何が何だかわからない(笑)。
でも、このアプリだと、どの順番で何を描いたかを再生できるので、後から見て、「ああ、こうやって描いて、こうなったのか」というように、ストーリーが見えるのです。
そして、この絵の下に国旗のマークがありますね。これで、どこの国にいる子が描いた絵かがわかります。こうやって、自然に海外の子の絵とふれていると、自分と感覚が違うことがわかります。
例えば日本の子どもは太陽を赤く描くことが多いですが、ヨーロッパでは黄色く描かれることが多いです。言語を一切介さなくても、こういう感覚を共有できることには大きな意味があると思うのです。
まだ、海外向けは始まったばかりで、マネタイズなどはまだこれからですので、いかに国境を越えてユーザーに使ってもらえるかというトライアンドエラーの最中です。
「どうやって海外の人に知ってもらうか」について、マーケティングはどのように考えていますか?
実は、私たちは日本でもほとんど広告費を使ったことがありません。すべて、AppleとGoogleのフィーチャーによって成り立っています。つまり、App StoreやGoogle Playといったアプリのプラットフォーム上で、「注目アプリ」として、取り上げてもらっていることで、ユーザーにどんどん使ってもらえているというわけです。
iPadのCMを見ると感じますが、もともとAppleやジョブズがiPadを通じて世の中に提供したかったライフスタイルは、決してゲームをガンガンやり込むことではなく(笑)、リビングで使われ、ファミリーで使われるというものを想定していたのだろうと思います。
以前、Appleからメッセージをもらって嬉しかったのは、「君たちのアプリに、感謝している」という言葉です。「Appleは、君たちが作っているようなアプリを、iPadで体験して欲しいんだ。親子で遊びながら学べるアプリ、いいじゃないか!」ということで、Appleが推奨してくれる、という背景があります。
Googleも同様です。彼らは、本質的ですよ。アプリをとにかく早く出せ、というスタンスではなく、「しっかりと作った良いものを、ユーザーに提供してほしい」という希望をしっかりと持っていますから。
私たちは、AppleやGoogleなどのプラットフォーマ―に意見も言いますし、彼らの理想や要望もきちんと聞きます。そういった関係性をAppleやGoogleと築いてきたことで、グローバルでもアプリをフィーチャーしてもらうことができ、マーケティングにも効いている、ということです。
事業の展開において、目先にとらわれない一貫性を感じます。
軸を持つことを、意識するようにしています。ソーシャルゲームのように、爆発的に伸びるものを目の当たりにすると、比較したくなってしまうものです(笑)。「俺たちも、これ位の成長をしなきゃいけないんじゃないか」と。
でも、やはり事業が違うんです。子供たちが最初に触れる絵本のように、10年、20年経っても支持され続ける「定番アプリ」を作り上げたり、世界中の子どもたちと、言語を介さずに遊べるものを作ったり、というのは目先の利益とスピードだけを追っていると、腰を据えて取り組めません。
もちろん私も、バリバリのネット企業で働き、モバイル業界に身を置いてきましたから、スピードや成長というものに対する感覚はかなりあるつもりなのですが、それでも、「変に、違うものと比較して、身を滅ぼすこと」は避けなければならない。軸を持たなければならない。と敢えて意識するようにしています。
スマートエデュケーションでは、今後の更なる成長に向けて積極的に採用を行っています。ご興味をお持ちの方はこちらからご連絡ください。