株式会社スマートドライブ
代表取締役 北川烈 氏
慶應義塾大学在学中に米国留学。
帰国後、東京大学大学院に進学。2013年にスマートドライブを設立し、現在に至る。
スマートドライブは、何をやろうとしている会社なのですか。
自動車の走行データを収集・解析することで、より快適で効率的な世界にすることをミッションとした会社です。
具体的には、このDriveOnというデバイスを自動車に取り付けるだけで、走行距離、どこでアクセルを踏み、どこでブレーキを踏んだか、どれ位のスピードをどこで出したか、車内気温と外気温はどうだったか、ワイパーの動きは、といった非常に面白いデータが取れるのです。スマホとBluetoothで接続していますので、ユーザーが毎回アプリを開かなくても、車に乗っているだけで自動的にデータが取れます。
そうすると、ここは急ブレーキが多いから事故のリスクが高いとか、こういうふうに配車したほうがいいとか、ここで渋滞が起こる仕組みになっているので交通計画を見直すべき、などといったことに活用することができます。いわゆる「テレマティクス」と呼ばれている領域です。
テレマティクスは最近かなり注目されていますが、コンセプト自体は20年ぐらい前からありました。ただ、今までの問題点は、車からリアルタイムに情報を吸い上げる方法がなかったことと、もしできたとしても機材がとても高いということでした。私たちのアプローチは、このような小さなデバイスを差し込むだけで、安く、リアルタイムに情報収集ができます。しかも、ドライバーに対してスマホアプリで「あなたの運転はこうですよ」とか「燃費が改善できますよ」といったフィードバックもできるので、今、走っている車の多くに搭載ポテンシャルがあります。
ハードウェアが絡むので「IoT系スタートアップ」と言われることが多いですが、このデバイスを通じて得た膨大なデータ、いわゆるビッグデータを活用してさまざまな展開を見据えられる点でも、非常に面白いところに立っていると思っています。
具体的には、どのようなビジネスなのでしょうか。
たとえば、自動車保険の分野では、Pay How You Drive(PHYD型)と呼ばれる保険商品があります。これは、その人の走行によって、保険の内容や条件が変わってくるというものです。安全運転をする人の保険料は安く、危険運転をする人の保険料は高いといったように、年齢や性別ではなく、その人の運転のスキルに応じた保険になるのです。私たちは、アクサ損害保険と業務提携(アライアンス)を締結しており、DriveOnを無料で配ることで、この領域を広く開拓していく予定です。ユーザーはスマホで簡単に自分の運転を分析できますし、メンテナンス時期をお知らせするなど、まだまだ様々なユーザーメリットを提供することができます。
他にも、収集したデータを解析することで、業務用車両の管理に使うことができます。例えばタクシーや、トラック、商用車をどう配車すれば最適になるか、ルートを外れていないかといったことを把握できますし、メンテナンスの必要性があるか、といった管理もできます。常に車検に出しているのと一緒なので、故障したらすぐ分かります。ドライバーにとっても、運輸系の企業にとっても非常に意味のある打ち手を打つことができます。
なぜそんなことをやろうと思ったのですか。
今後20年で、自動車の世界が大きく変わっていくと確信したからです。これには大きく分けて三つの要素があります。「テレマティクス」、「電気自動車」、「自動走行」の三つです。
都市の交通システムそのものが大きく変わる可能性があります。車を運転しなくてもよくなれば、車の中で仕事をしていても、寝ていても、映画を見ていてもいいわけです。従って、移動というものが大きく変わるだけでなく、生活そのものが大きく変わるポテンシャルも秘めています。
そう考えたとき、日本はとても面白いと思います。自動車産業は日本の基幹産業ですし、交通システムという面でも、日本ほど発展している国はありません。ここでしっかりモデルケースを作ることができれば、世界に展開することができます。オリンピックというチャンスがあり、そこを一つの大きなきっかけにして、面白いものをつくっていけるのではないかと思っています。
この領域が面白いと思ったとき、私はまず、「全部の」アプローチを調べようと着手しました。自動走行の技術や、バッテリーなど、関連する技術やビジネスをかなり調べたのです。その過程で、「自動車業界出身ではないイーロン・マスクが電気自動車を作れるのだから、車両から情報を取得するデバイスくらいは作れるかな」といったことを考えながら「テレマティクス」に行きつきました。テレマティクスは注目されているものの、まだフットワーク軽く、チャレンジをしている企業が見当たらなかったからです。これなら、スタートアップならではのアドバンテージが活かせるのではないかと思ったのがきっかけです。
ハードウェア、ソフトウェアとの利害調整など、どのように着手したのですか?
まずはハードウェア、つまりデバイスです。人にイメージしてもらいやすいように、デバイスと簡単に動くアプリケーションに着手しました。デバイスの中に積んでいるのは、基本的には、センサーと、自動車と話すソフトウェアです。追突防止のセンサーがついているかによって収集できる情報に違いがあるなど、「車との話し方」はかなり大事で、そこは大切なノウハウになっています。
技術的には、車を操作することも可能です。極端な話、走行中のエンジンを止めることすら可能なのです。テスラなどは、ファームウェアのアップデートをするだけで自動走行車になりますので、凄いレベルです。ですが、私たちは操作にはタッチしません。デバイスのピンごと抜いて、こちら側からの操作は一切できないようにしています。担っている役割は、ハードとソフト、それにサーバで3分の1ずつぐらいのイメージです。ソフトウェアが組み込まれたデバイスでデータを収集し、それをサーバに送ってクレンジングし、データを解析するという順序です。
デバイスを通じて得られたデータをもとにどのような価値を提供していくかですが、しばらくは、ビッグデータといえるほど価値のあるものにはなってきません。まずは、「見えていない情報を可視化する」ということが一番大事だと思っています。そもそも、可視化のハードルが非常に高かったので、それをまずクリアにしていくというのが、今のフェーズです。
今後は、関連プレーヤーとの利害調整や、いわゆるエコシステムの構築が重要になってきそうですね。
まさにそこが今後の課題です。どこをどう巻き込んで調整し、自分たちがどこを担うかが重要です。
向き合っているテーマが非常に大きいので、国の動きと方向性が合っていることが大切だと考えています。政府としても、やはりオリンピックまでに、トランスポーテーションの進化やトレーサビリティーチェックなど、進めていきたい方向があるかと思いますので。よって、総務省からの助成金や政府系ファンドといったお金を入れるなどして大きな動きに沿いつつ、ベンチャーの身軽さを最大限に活かすことが一番の理想です。
何が北川さんに影響を与えたのですか
私は学生時代、幸いないことにMITメディアラボに入り浸るチャンスがありました。当時の私は日本でちょっと調子に乗っていたのですが(笑)、MITに来て「これは無理だ」と思いました。いる人たちのレベルが圧倒的に違いました。たとえば、当時20歳ぐらいの学生が、壁の向こうを見る技術を研究していたのです。壁の向こうから乱反射してくる光を集めて、壁の向こうに何があるかを調べるのです。それこそ、『シックス・センス』というか、『マイノリティー・リポート』の世界です。そんな研究がゴロゴロしている環境でした。そういう人たちに触れると、天才と競ってゼロから物を生み出すよりも、優れたものをきちんと社会にフィットさせるということが、私がバリューを出せるところだと思いました。
自動車領域をやるきっかけは、アメリカで知人を訪ねたときに、実際に自動走行の電気自動車に乗って「今後こういう世の中になるんだな」と感動したのが一番のきっかけです。当たり前ですが、本当に自動で走るのです。
今は自動走行の動画がたくさん溢れていますが、実際に乗るとびっくりしますよ(笑)。友達が運転席に座っているのですが、よく見ると何もしていないのですから。
今後はどんなチームにしたいですか。メッセージをお願いします。
「難しいことに挑む」とか、「未知のことが楽しい」といったように、ゴールの共有と価値観が一緒の人たちと一緒にチームを作りたいです。単純に技術的に面白いというだけだと、少しずつ面白いポイントがずれてきて、最後まで走り切れなくなる可能性がありますから。デバイスだけでなく、ソフトウェアだけでなく、サーバだけでもない。また、データ分析だけでもありません。それらを全て最適に組み合わせて、世の中を変えていくということに面白さを感じられるチームでありたいと思います。
自動車は、非常に大きくて面白い領域です。電気自動車や自動走行など、目新しい話がたくさんあります。本当に人々の生活が変わるポテンシャルを持っています。ただ、今の社会システムに入れるとなると、難しい問題がたくさんあります。極端に先を見過ぎて分からなくなるより、まずは可視化することから始めようというアプローチは、大きなことを成し遂げるためにとても有効だと考えています。そういう意味では、テレマティクスというのは非常に意義ある一歩です。日本の強みを活かせるだけでなく、オリンピック後の「未来」にも通じます。本当に面白いところに立っているなと実感しています。