株式会社ミスミグループ本社
執行役員 林佐和才 氏
東京大学工学部卒業後、住友商事に入社。鉄鋼部門にてトレーディング経験を積む。イェール大学にてMBA修了後、米国現法にて鉄鋼事業への投資および事業経営を行い、2008年ミスミ入社に入社し、事業部長(2011年12月時点)。
これまでのご経歴を教えてください。
新卒で住友商事に入社し、鉄鋼部門で国内のトレードを4年間、海外のトレードを4年間やりました。いわゆる商社でのベーシックなトレーディングに加えて、新しいこと、特に経営的な観点をもち、事業に携わっていけるようになりたいという思いから、イェール大学にMBA留学しました。
MBA修了後、4年間住友商事の米国オフィスに残り、鉄鋼部門にて幾つかの事業投資を行い、その後も、投資先の事業会社の経営に携わりました。米国での仕事は、年齢があまり問われない環境でしたので、若さがハンデとならず、思い切り事業経営に携われました。しかしその後、日本に帰国して大組織の一員に戻り、その頃から「このままの成長時間軸でよいのか」という危機感を覚え、転職を考えるようになりました。
父親が癌宣告されたことも自分の時間軸を考える上で大きかったと思います。ミスミ入社後半年間は、企業体社長補佐として、全社改革プロジェクトの事務局業務を担当しました。その後の1年間、金型事業部のディレクター・副事業部長として一つのチームをマネジメントした後、事業部長に昇格、現在は、主にプレス商材のグローバルベースでの事業展開を担当しています。
転職先としてミスミを選んだのはなぜですか
米国で投資した事業のボードメンバーとして経営に携わった際に痛感したのですが、理論や大きな戦略の話はできるのですが、一方で具体的な事業のオペレーションや、人のマネジメントの話など、本当に事業に即した生々しい話については、明らかに経験不足だと自覚したんです。私と一緒にその事業に携わっていた住友商事の方は60歳くらいの方だったのですが、やはり事業そのものに対する経験があると、発言の重みが全く違うんですね。
結局、その方から役割を引き継いで、七転八倒しながら事業経営をやったのですが、どこかでしっかりと、学びを得ながら事業経営に携わるための基礎訓練をする必要があると感じたことが、大きな転機となりました。戦略系コンサルティングファームも見たのですが、ミスミは面接過程で会った経営陣の印象などからも、「生きた経営の経験」を学べるなと感じました。そして、ミスミで活躍している、とても尊敬できる人間と働けることもあり、最終的にあまり迷うことなくミスミに入社しました。
実際に、ミスミの海外事業はどのように行われているのですか
前提として、「海外事業」というひとくくりではなく、既に「中国市場をどうするのか」「インド市場をどうするのか」という個別の議論になってきています。「海外事業」とひとくくりにしているうちはまだ、本当の海外事業ではないと思います。具体的な方法論は事業ごとに異なりますが、その国にしかるべき「需要の塊」があるかどうかを見て、それがミスミにとって十分な規模か、その市場が成長ステージのどこに位置するのか、を検討します。
そして、その需要を満たすために、調達・生産・物流などをどうすべきか、つまりミスミのビジネスモデルをどのように活かすことが出来るのか、という検討が続くわけです。この中でも特に重要なのは、「市場がどの成長ステージにあるか」という点です。ミスミは日本国内で、市場の成長とともに大きくなってきましたが、海外は違う経緯になります。その点は極めて重要だと考えています。
ミスミのグローバル化は、あくまでも日本で確立した「ミスミモデル」ともいえる強固なビジネスモデルをベースにし、それを見直し・補強しつつ海外に展開していく、というのが基本ですので、今後ご入社される方は、最初は国内事業で、早期に基本を身に着けるのが良いと思います。ミスミの海外事業への携わり方は、私が入社した2年前とはかなり違いますので、今後ご入社される方は、海外に関わる機会は大いにあると思います。
これまで直接的な経験のない、機械工業部品事業のマネジメントに、戸惑いはありませんでしたか
意外と戸惑いはありませんでした。 ミスミでは、同業界での経験が必ずしも必須ではありません。私にとってはむしろ、「仕事のやり方が近い」という点で、ミスミでの仕事は比較的早期にしっくりきました。というのも、商社での新規事業経験がかなり活かせたためです。新しい事業や商材を探し、その販売戦略を立案し、パートナーとwin-winの関係を作りながら戦略を実行していく...。商社やメーカーでの事業経験がある人にとっては、ミスミの事業形態は比較的入っていきやすいと思います。
林さんは、ディレクター、副事業部長、事業部長と、昇格されていますが、ディレクターと事業部長では、仕事の範囲はどのように変わるのでしょうか
ディレクターは、積極的に現場に入りこみ「自ら刀を振り回して戦っている」というイメージです。事業部長になると、任される組織が大きくなるため、戦える範囲が限られてしまいます。そのためもちろん現場から離れはしませんが、全体的な組織力をあげることに集中する「オーケストラの指揮者」のようになっていきます。戦略を立てるスコープも、ディレクターと事業部長ではやや異なります。
「さまざまな事象がドミノ式に繋がっていることを発見し、戦略を立てるのが事業部長」であり、「その一つの事象や領域に深く責任を持つのがディレクター」といった感じでしょうか。また、通常の事業に関する戦略立案や実行の業務に加えて、その他に複数のプロジェクトが走っています。例えば、生産集約、商品企画、QCT改善、といったプロジェクトが社内でいくつもあり、ディレクターであればそういったプロジェクトを1つか2つ、事業部長になると4つか5つ廻しています。
事業部長やディレクターはどのように経験を積み、育成されていくものなのでしょうか
ビジネスプランの立案を通じ「経営陣と知的闘争ができる」という点が、ミスミの人材育成において大きいのではないかと思います。その知的闘争の結果、認められたビジネスプランであれば、それほど大きなハズレはありません。ミスミの経営陣がレベルの高い戦略立案と、戦略の実行を通じて鍛え上げられているからだと思います。
ですから、ミスミのリーダーは、戦略を立てる力、そして立てた戦略を共有する力が強いです。結果、シンプルなストーリーが現場レベルまで明確に共有され、リーダーだけが把握し、他の人達はよく分からないがそれに付いて行くということは、ミスミでは起こらないのではないでしょうか。
最後に、このインタビューの読者の方々にメッセージをお願いします
敢えて「大変さ」という点でお伝えしますと、個人的には、働く時間は前職とあまり変わらず、大変さは特に感じません。むしろ、早期にアウトプットを出さなければならないという「短い時間軸」と、「マルチタスク」が大変です。「一つのプロジェクトに専念させてください!」と思うこともありますが、実際の経営者であれば、そんなことは言っていられません。
「何か一つに専念」という訳にはいかず、マルチタスクで色々とこなさなければ、経営になりませんからね。そして「徹底的にやる」ということが大切です。「これ位でいいんじゃないか」と妥協せず、どこまで自分を追いつめられるか。自分を追いつめて、突き抜けた先を見た経験がある人は、自動的にその成功体験を反復する習性があるため強いと思いますし、ミスミでも経営リーダーとして大きく活躍できる可能性があると思います。