日本の成長企業

リブセンスは、これからどこに向かうのか

株式会社リブセンス
代表取締役社長 村上太一 氏

1986年東京生まれ。2009年早稲田大学政治経済学部卒業。早稲田大学のビジネスプランコンテストで優勝し、2006年大学1年生の時に株式会社リブセンスを設立。アルバイト求人サイト「ジョブセンス」は、公開から数年で最大級の求人サイトに成長。2011年12月、東証マザーズに上場した後、2012年10月に東証一部へ指定替え。史上最年少の25歳で東証一部上場企業の社長となる。

はじめに、リブセンスの事業について簡単に教えてください。

ひとことで言いますと、インターネットメディアの運営です。現在は、アルバイト探しの「ジョブセンス」を筆頭に、求人、不動産などの領域でサイトを運営しています。ジョブセンスは、月間300万人以上のユーザーにお使い頂いています。主な特徴は、「成功報酬型」であるということです。これまでは、求人にしても、不動産にしても、メディアにお金を払ってから広告を掲載し、結果が出なければ広告費はそのまま丸損というのが普通でした。

それに対してリブセンスは、採用や物件問い合わせが成功して初めて対価が発生するといった、「成功報酬型」を持ち込んで成長してきたのです。 また、成功報酬型のサービス以外では、いわゆるCGM(Consumer Generated Media)も展開しています。他社の例でいうと、食べログのような口コミサイトですね。リブセンスの「転職会議」というサイトがまさにCGMですが、これは、転職にあたって気になる社風や、仕事のやりがい、給与などの情報を、「その会社に在籍したことがある人」が発信した情報をまとめてメディア化したサービスです。

ジョブセンスをはじめ、複数のサイトの立ち上げに成功していますが、成功確率を上げる方法はあるのでしょうか。通常、ウェブサービスがヒットする確率は、100分の1や、1000分の1といったレベルに見えるのですが。

株式会社リブセンス 代表取締役社長 村上 太一氏

ある意味、シンプルだと思っています。世の中を観察し、「なぜこういう仕組みになっているのだろう」とか、「こういうサービスがあったら、人ってどういう動きをするのだろう」ということを、徹底して考えるということです。私自身、365日、そういうことを考えています。ただ、パッとしたひらめきをそのまま事業化することはまずありません。ひらめきは単なる「予想」でしかなく、それだけで成功することはほとんどないからです。しかし、その予想を積み重ねて「仮説」にし、徹底的に議論したうえで、その仮説を「検証し続ける」ことで成功確率が上がるのです。

これはごく当たり前のように聞こえますが、成功に奇策はありません。偶然に依存せず成功させるためには、仮説立案、仮説検証、実行を繰り返していくことこそが重要です。短期のヒットを狙うなら、ひらめきをそのまま事業化しても成功するかもしれませんが、リブセンスは、あくまでも長期で世の中に影響を与えることを目指していますからね。

それに、重要なことを付け加えるならば、「収益モデルの原理原則を押さえること」も重視しています。これは、「ゼロックスは、プリンタ本体は安価でも、インクトナーの利益率が高く、それで収益を上げている」、といったビジネスの勝ちパターンのことです。単なる思い付きではなく、高確率で成功するサービスを生み「続ける」ためには、既存の成功事例や、原理原則を押さえていることも大切な要素だと思います。

事業を「立ち上げる力」と、「継続・発展させる力」は、別の能力に思えます。「継続・発展させる力」については、どのようにお考えですか。

「長期で世の中にインパクトをもたらすこと」を前提にしていますので、立ち上げ時から「維持・発展段階」のことも当然、織り込んで考えています。ですから、「立ち上げ」も、「継続・発展」も、本質は同じではないかと思っています。どちらも、「今、何が最重要の鍵か」を徹底的に考え、実行する力が大切です。 例えばジョブセンスの立ち上げ期においては、とにかく数多くのユーザーに登録してもらい、企業に求人広告を出してもらうという基礎を作る必要がありました。

そのためには、アルバイトを探している人がウェブ上で検索をした際に、ジョブセンスの掲載案件がヒットするかどうかが非常に重要な鍵だったわけです。そこで、SEOに徹底的に注力しました。 そして立ち上げ後、ユーザー数を一気に伸ばした鍵は「口コミ」です。「ジョブセンスを使ってアルバイトの就業が決まったら、リブセンスからお祝い金がもらえる」という仕掛けをしたことで、これが口コミで広がり、「アルバイトを探すなら、ジョブセンスがおトクだよ」という感じで一気に拡大したのです。

2012年9月には、当社初の試みとしてジョブセンスのテレビCMを出稿しました。これは、マス広告に大きな予算を投下すれば、「これくらいのユーザー増加が見込める」というROI(投資対効果)が重要であり、それが見える段階に入ってきたからです。 このように、段階ごとに必要となる打ち手もウォッチすべきKPIも異なりますが、「今、何が最重要の鍵か」を徹底的に考え、実行する力がベースであることに変わりはないと思っています。

ジョブセンスの知名度と収益力が強いために、「リブセンス≒ジョブセンス」という見方もあります。今後の事業展開は、人材ビジネス領域がメインなのでしょうか、それとも、全く異なる分野への進出もあり得るのでしょうか。

株式会社リブセンス 代表取締役社長 村上 太一氏

「人材サービス以外の領域にも進出する」ということについては断言できます。現に、不動産サイト「DOOR賃貸」といった人材サービス以外のサービスも立ち上げ、わずか1年で黒字化させています。今後も人材以外の領域に大いに進出していくつもりです。

ただ、出ていく領域の選定には、前提が二つあります。一つ目は、取り組む課題が「大きいか」ということです。なぜなら、大きな課題でないと、解決するワクワク感が少ないからです。大きな課題に向き合うと、必然的に市場は大きくなりますし、世の中への影響も大きいですから。

二つ目は、「リブセンスに解決できる領域か」ということです。あくまでも、プロダクトそのものの強みや、Webマーケティングの強みで課題を解決していくことがリブセンスの優位性ですので、ここから全くかけ離れた領域では、いかに大きな課題だったとしても勝算は低いと考えています。例えば、人海戦術の営業力が無ければ解決できない課題であれば、それはリブセンスが取り組むべきものではない、ということです。

私は、リブセンスという会社を、「新しい価値で、世の中の人に圧倒的な影響を与える会社」にしたいと思っています。例えば、ポカリスエットです。もともと長時間の手術後に点滴を飲んだお医者さんがいたことに着目して企画されましたが、最初は「不味い」、「売れない」と言われ、製品化が危ぶまれていました。それが、幾多の困難を乗り越え、スポーツドリンクという全く新しい市場を創造したわけです。他には、駅ナカビジネスなどもそうですね。最初は、「駅の中?そんなところで消費するかな?」という感じで、店舗の立地としては評価をされていませんでしたが、今となっては、最高の立地と言われるようになっています。

ポカリや駅ナカビジネスのように、「今となっては当たり前だが、振り返ると多くの人に影響を与えるイノベーションだった」、といわれるサービスを生み出したいですね。それをリブセンスでは、「未来の当たり前をつくる」や、「文化となるWebサービスを、つくる。」という言葉で伝えています。

「リブセンスに解決できる領域」として、ウェブサービス以外に展開する可能性もあるのでしょうか。

しばらくは無いと思います。「文化となるWebサービスを、つくる。」というスローガンの通り、リブセンスとしてはあくまでもウェブサービスを通じて世の中に影響を与えていきたいと思っています。ただ、将来的に可能性がゼロかと言われれば、そう断言することに抵抗があることも事実です。インターネットは確かに世の中を変えましたが、例えば、洗濯機のほうが、もっと多くの人に影響を与えたかもしれません。洗濯機の出現によって、それまで大変な手間をかけて洗濯をしていた人々の暮らしが変わったわけであり、世の中に与えた影響は計り知れないと思いますから。リアルなものの影響力はやはりまだまだ強いなぁ、と感じることはありますね。

海外進出の可能性はあるのでしょうか。

将来的には、海外進出の可能性はあると思います。ただ、あくまでも「サービスありき」です。私は、「海外進出=良いこと」だとは思っていません。日本国内だけでも1億人以上いるわけですから、そこに向けてサービスをやるということには、十分な価値があると思っています。海外進出自体は決して難しいものではありません。例えばiPhoneアプリで、言語を越えて使われそうなものをリリースすれば、海外でもある程度使ってもらえるとは思います。でも、それが国内外合わせて100万ユーザーだとすれば、日本国内で1000万ユーザーに使われているサービスの方が凄い、という感覚があります。

ですから、「海外へ出る=偉い」という価値観はありません。とりあえず海外に展開して、多少、海外のユーザーに使われて喜ぶというのは、ちょっと違うかなと思っています。やるからには、海外へ行くにしても1位になれるものでやりたいと思います。そういう意味では、海外ありきというよりも、サービスありきのスタンスだといえます。

売上高や社員数、時価総額といった「会社の規模に関する長期目標」は、村上さんにとって重要ですか。

上場企業として、責任を持って中期経営計画を出すことの重要性は感じています。ただ、長期での会社の規模という点では、まだイメージが湧ききっていないのかもしれません。稲盛和夫さんは80歳であれだけのことを成し遂げていらっしゃいますが、経営者としての人生を想像した時に、まだ最終的な規模感を数字で持てていないのが正直なところです。

ただ、ユニクロの柳井さん、ソフトバンクの孫さん、日本電産の永守さん、といった素晴らしい経営者の方々は、皆さん具体的な数字を掲げています。それを見ると、長期についても数字のイメージを持つ必要があるのではないか、と思い始めたところです。このように、経営をしながら、学びながら、考えながら常に変わっているというのが本当のところです。やはり2年前の自分と今の自分は違いますし、きっと5年後の自分も会社も随分違うのだろうと思います。そうやってどんどん変化していくことに意味があると、「今は」思っています。

東証一部上場企業であるリブセンスを、既に出来上がった会社と見られる怖さはありませんか。

株式会社リブセンス 代表取締役社長 村上 太一氏

本当に、そこだけは、誤解されたくないところです。もちろん、東証一部上場の審査基準を満たす企業として認めて頂いたことには意味がありますが、それと、既に出来上がった会社だということとは、全く異なることだと思っています。あくまでも「スタートラインに立っている」に過ぎません。ですから、「自分から動き、ムーブメントを起こして、作り上げていくタイプの人」と一緒に働きたいと思っています。既に完成されていれば、オペレーションを粛々とこなしていく方がフィットするのかもしれませんが、リブセンスは全く違います。

変化を厭わないカルチャーがあり、新規事業に出ていく計画があり、かつ、上場企業としての強みも活かせる。そう考えて、「むしろ自由度が高い」と感じて頂ける方にこそ、面白い会社だと思います。 文化となるWebサービスをつくる会社にしたいという軸がありますが、そのための「手段」には、変にこだわるつもりがありません。 今のリブセンスのやり方は、「今、この時点で、この手段のほうが良いのではないか」と考えてやっているだけであって、固まっているわけではありません。

ですから、「この方が、より良いサービスを作ることができる」という新しい人の意見が、抵抗なく受け入れられる土壌があります。ただそのためには一点だけ、「目的を共有している」ことが大事だと思うのです。「自分が働きやすくするためには、この方が良い」ではなく、「良いサービスを作るためには、この方が良い」という目的が一致していれば、手段の部分については、新しい人からどんどん良い風をもらいたいと思っています。 私自身、言葉のキャッチボールの中から生まれてくるものをとても大切にしているので、そういう建設的なやりとりができるメンバーが増えると、本当に心強いですから。

最年少上場ということで「若さ」に注目されがちですが、ご自身をどのようなタイプだと思いますか。村上さんと共通の知人が、「村上さんと話していると、まるで40代半ばの経営者と話をしているような成熟度を感じる」といっていましたが…

40代半ばのようだというのは、褒め言葉なんですかね(笑)。 成熟度が高いかどうかはわかりませんが、人の行動パターンをじっと観察したり、想像していることが多く、結構しっかり考えて動くタイプだとは思います。そういう意味では、体育会系、営業会社といったものの対極にあるかなとは思いますね。 とはいえ、草食系かというと、それは違うような気がしますね。一見、ニコニコした草食系に見られますが、内側では、ヒシヒシと熱いものを持っているぞ、という感じです。草食系でも、肉食系でもなく、「ロールキャベツ系」といったところですかね(笑)。実際は意外と骨太な経営をやっている会社なんだぞ、ということでどうでしょうか(笑)。

イメージが湧きました(笑)。最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

株式会社リブセンス代表取締役社長 村上 太一氏

リブセンスは、本当に面白いフェーズにあると思います。事業としてもユーザーさんの数は多く、顔も見えますし、新規事業にもどんどん打って出たいと思います。そういう意味では、開発してサービスを作れるエンジニアの方も、マーケティング等の事業系の方も大いに活躍いただける余地があります。 とにかく、これから入ってきてくれる人たちと、話して進めていきたいことがたくさんあります。それ位、まだまだ固まっていない部分が多く、塗りシロというか、余白がたくさんあります。 これを読んでいる方の中には、もちろん転職活動をしていない方も多くいらっしゃると思います。

「今は、転職を考えていないが、リブセンスにはちょっと興味を持ったなぁ」、という人がいるかもしれません。そういう人にこそ、ぜひリブセンスをもっと知ってもらいたいと思います。今すぐ応募、というのは抵抗があるかもしれませんから、そういう場合は、プロコミットさんに相談してみてください。そして、リブセンスへの理解が深まる中で、ご縁があればとても嬉しく思います。ぜひ一緒に、文化になるようなサービスをつくっていきましょう。

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