株式会社カンム
代表取締役社長 八巻渉 氏
スタートアップながらフィンテック領域の、しかも決済周りで事業展開されていますね。
そうですね、決済におけるスタートアップとしてはかなりど真ん中の領域を手掛けていると自負しています。 今メインにしているサービスは、「バンドルカード」という、Visaのプリペイドカードです。わかりやすくいうと、中高生でも、いや理論上はゼロ歳児でも使えるVisaカードといったところでしょうか。例えば中高生がスマホで音楽やアプリを買ったり、ECを使ったりする場面ではクレジットカードが求められますよね。ただ、与信の関係上、クレジットカードを持つことは難しいわけです。 ところが、私たちの「バンドル」というアプリをインストールするとすぐにVisaカードの番号が発行され、現金をチャージして使えます。あくまでもチャージした金額の範囲内で決済できるという仕組みなので、与信のステップが不要です。これでクレジットカードを持つのが難しかった高校生や主婦、高齢者などに便利に使ってもらえるのです。バンドルに現金をチャージするには、コンビニで入金することもできますし、キャリア決済での支払でも可能です。中高生にとっては手数料なしに手軽に決済できる体験として画期的なわけです(一部チャージ手段では手数料をいただいています)。
また、アプリ上だけでなく、プラスチックカードの発行も可能です。Visaのマークが入ったカードで、クレジットカードと同様の番号が印字されており、実店舗でも使えます。この、バーチャルとリアル、2段階に構えるスタイルは日本初ですね。インストール数は2018年1月時点で37万、稼動会員のうち半分はリアルカードを発行しています。中高生でもコンビニなどで使えるのが便利なのでしょう。実際、10代の使用シーンはiTunes、アマゾン、メルカリで、それに次いで実店舗であるコンビニとなっています。10代の1月当たりの平均チャージ単価が約7,000円なので、一度使って慣れてくると毎月おこづかいをチャージしてくれていると分析しています。
10代で便利さを知ると、ユーザーとして定着しそうですね。
youtubeを通じたプロモーションも10代の認知を後押ししてくれました。アプリという相性の良さも手伝って、30~40人のyoutuberからの発信で10代会員を15万人獲得できたのです。
また、プラスチックカードは企業向けの提携カードも作れるので、アイドルグループの会員カードなども発行していますから、そうしたところからのユーザー獲得も今後は見込めるでしょう。
層を広げる意味では、ビットフライヤーとも提携していて、ビットコインからの円建てチャージもできるようにしています。
Visaというビッグブランドとスタートアップが協業できているのはすごいことですよね。ここに至る経緯を教えてください。
学生時代からエンジニアとしてデータ分析を得意としていましたが、これからの日本にとって大切なことを考えた時に、データとの相性の良さも踏まえ、金融でのチャレンジを選んだのです。創業期だったスマホ決済のコイニーでプロトタイプ作りを手伝っていたこともあり、金融業界での人脈を得て、起業に至りました。
最初のビジネスは、アメリカで先行事例が出てきていたCLO(Card Linked Offer)という、クレジットカードの決済情報を元に、ターゲティングしたクーポンをカード会員に提供するマーケティングサービスです。とにかく、日本で最もCLOに詳しいレベルにまで調べ上げ、20ページくらいの提案資料を持ってカード会社数社に日参していましたが、これを繰り返す中でカード会社の理論が分かってきて、関心を得られるポイントがつかめたのでしょう。最初に興味をもってもらえたのがクレディ・セゾンで、4ヵ月後にサービスリリースができました。カンムの創業が2011年で、2013年からCLOを展開しています。
着眼が、非常に早いですね。
創業当時、決済周りでのベンチャーの事業では、アメリカでジャック・ドーシーがTwitterの成功に次いで、スマホ決済のSquareを創業していました。ほかにもVenmoやBraintreeといった決済代行のスタートアップがありましたね。自分でも、マネーフォワード的な資産管理サービスには可能性を感じましたが、データの自動取得というのが浸透するか疑問もあり、今思えばそれは間違いでしたが、それよりはCLOのほうが筋がいいと判断したのです。
実際、クレディ・セゾンとのCLO事業は成功し、日本での先駆けとなりました。ただ、カード会社にしてもそうなのですが、その立ち位置で取得できるデータでは店名が分かるだけなので、100%の精度ではありません。たとえば、クレジットカードの明細にある「ミツコシ」が三越百貨店なのかスナックみつこしなのか、分からないわけです。これは限界があると感じました。
そうした中、CLOを他のカード会社にも広げていこうとしていた時に「プリペイドカードでCLOを」というニーズに出会ったのです。それで調べてみると、プリペイドカードであれば残高がリアルタイムで引かれるので、データ取得もリアルタイムですし、利用店も正確に特定できるインフラが整っていました。データ活用と相性がよいというのでバンドルカードのアイデアにつながり、これならベンチャーでも自ら決済情報を把握できるプラットフォームになると確信しました。それで既知のVisaライセンサーに順に話を持ち込んでいき、半年ほどで意思決定をしてくださったオリコカードと組むことになったのです。実際の契約にはそこからまた1年かかりましたが、2016年9月にバンドルカードの発行にこぎつけました。
バンドルカードにおける御社の位置づけはイシュアー(発行元)になるのですか?
厳密には、Visaから見たイシュアーはオリコで、当社はオリコからVisaのライセンスを借り受けている状況です。BIN(Bank Identification Number)スポンサーモデルといって、銀行の識別番号であるBINをオリコにスポンサードしてもらっていて、Visaからすれば当社は提携先になります。ただ、電子マネーを運営するための資金決済法の許認可は当社が取得しているので、日本の法律上は、当社がイシュアーでもあります。
ですから、バンドルカードの表面にはVisaのロゴマークがあり、裏面には発行元としてカンムの名称と、sponsored by Oricoと記されているわけです。このカード自体に、いろいろな苦労が込められていますね。Visaからのデザインルールも厳しいものがあって確認のやり取りだけで数ヵ月を費やしたり、紙の色見本とは違った手間もありましたし、磁気印刷の苦労もありました。このカードは、ノウハウや苦労の結晶なんです(笑)。
バンドルのビジネスは今後、競合が出てくる可能性はありますか?
既に近いものとして、KyashのバーチャルプリペイドカードやLINE payカードがありますね。以前からで言えば、auWALLETやソフトバンクカードも近いものではあります。
ただし、クレジットカードの市場にも言えることなのですが、ユーザーは数あるカードを調べ切って自分の気に入ったものに行き着くのではなく、たまたま目に付いたものや、友人が使っているからといった理由で会員になる傾向が強いのです。ですから、例えば大手や強力なベンチャーが一大キャンペーンを張って参入してきたとしても、それで地図が塗り変わるようなことはないでしょう。バンドルとしては、youtubeを通じてすでに10代では既に相当数のユーザーを獲得していますし、クレジットカードを持てない層に対しては今後も一日の長があると考えています。
それに、スタートアップらしからぬ力技も実はやっていまして、サポートセンターは自社で運営しているんです。手はかかってもユーザーの声が聞けますので、開発に活かすためには必然でした。自社で運営していると、ユーザー層のカードに対する意識や感覚、レベルがリアルにつかめるんですね。それに、最初の半年は、メールの問い合わせには私自身が応えていました。1日に50~60件はあったでしょうか。やった甲斐は確実にあり、UI/UXにいろいろ活かせました。でも、心身ともに疲弊はしましたね。もう一度同じことをやるかと言われれば・・・難しいかもしれません(笑)。
今後、新たなビジネスの構想はお持ちですか。
2018年から、より金融領域の中枢に近い展開を始めていきます。20歳以上の方をターゲットに置いた、独自の与信モデルでのクレジットカード発行です。ユーザーとしては、今の世の中、リボ払いやキャッシング、カードローンなどでこれ以上クレジットカードを使いたくても使えないという層がいますから、小口貸金とでも言うべきサービスへのニーズがあると見ています。ただ、既存の貸金サービスは、分かりにくく、どんどん債務が増えていく構造があって、そこも解決したい課題だと考えています。もちろん、後払いなので焦げ付きなどのリスクコストはある程度見込んだ上で、リスクデータの取得モデルとして勝算を感じています。カンムがめざす「世の中のお金の流れを円滑に」が、また一歩前進します。
また、すでに発表させていただきましたが、フリークアウト・ホールディングスと本格的な資本業務提携を実施いたしました。また、フリークアウトは、mPOS端末を提供するコイニーや、EC事業を展開するstores.jpを傘下に収めるヘイ会社との提携も発表されました。保証業務を行うGardiaも持っています。今後はこの5社で連携して、新しいFinTechサービスを提供していく予定です。
そうすると、陣容もさらに充実させていくことになりますね。
そうですね。今はエンジニアやデザイナーなど開発、金融機関との交渉やマーケティング、プロモーションなど事業開発やサポートセンターのオペレーションに携わるメンバーで構成されています。
フィンテック領域ではテクノロジーの感性が非常に重要だと思っていますので、管理部門も含め、メンバーにはテック系のスキル、経験、素養を求めたいところです。今後も新しいプロダクトに挑戦していくので、その部分の開発チームと、それをバックアップするスタッフが必要です。
現在のカンムのエンジニアは、それぞれに強みはありながら、2ヵ月あればフロントエンド・バックエンドとも対応できるレベルの人たちですね。今後求めたいのは、「社会インフラをハックしていきたい人」です。金融領域に限らなくてもよいですが、例えば、「今の資金決済法の中でもこんなことができる!」など、ルールや縛りの部分へのチャレンジを面白がれる人には合うと思います。目の前のものづくりだけでなく、それを使って何ができるか、社会をどう変えられるといったところまで一緒に議論できるような人は大歓迎。ディスカッションができる人なら絶対に楽しめるチームです。
プロダクトとしてはアプリケーションもですが、裏で基幹システムも作っています。Visaと接続する部分に日々喧々諤々しているチームがいて、Visaの電話帳みたいな分厚い資料と格闘しながらも伝統的なITベンダーとは違い、AWSのサービスなどを絡めながら、100人規模の業務をその10分の1の労力でこなしてしまうというか、そこはまさにスタートアップの腕の見せ所かもしれません。 2019年のIPOに向け準備中なので、社内の組織や環境もさらに整っていくところです。このタイミングでぜひ新しい人に、世の中のお金の流れを変えるチャレンジに加わってもらいたいですね。