freee株式会社
代表取締役 佐々木大輔 氏
一橋大学商学部卒、データサイエンス専攻。博報堂のマーケティングプランナーを経て、ベンチャー企業のCFO業務を経験。2008年にGoogleに参画し、日本市場向けマーケティング戦略の立案、SMB(中小企業セグメント)に対するビジネス戦略の推進をはかる。2012年にfreee株式会社(旧CFO株式会社)を創業。インフィニティ・ベンチャーズ・サミット「Launch pad」2013 Spring優勝等、受賞歴多数。日経ビジネスが選ぶ2014年「日本の主役100人」。
freeeはどのようはプロダクトなのですか。
クラウドで使う全く新しい会計ソフトです。個人の確定申告や中小企業の会計業務が、これまでより安く、とても簡単になります。これまでは紙の資料が飛び交い、入力してはプリントアウトして..といったことを繰り返しており、大いに無駄がありました。エンジニア目線で見ると、同じことを二度やることは明らかに非効率です。データがどこかにあるなら、紙を介さずにそのまま取り込んで使えばいい。たとえばオンラインバンキングのデータを会計ソフトと連動しておけば、取引明細の内容を読み取り、自動で勘定科目を予測するなど、仕訳も非常に楽になります。経理の専門知識が無くても会計帳簿が自動で作成できるため、会社にとっても、個人にとっても、一気に負担を減らすことができます。
私は以前、スタートアップでソフトウエア開発に携わりながら、CFO業務を兼務していたことがあります。これは貴重な経験でした。ソフトウエア開発では常に、効率を考えて同じことを繰り返さないように最適化をしていきますが、管理部門の業務は全く逆でした。同じデータを別の人が手入力していたり、それをプリントアウトしてまた他の人が使ったり、ということがしょっちゅう行われていたのです。この強烈なギャップが、全く新しい会計ソフトの開発に向かったきっかけのひとつです。それに、Googleで「スモールビジネス」と出会ったことが、freeeを始めることに大きく影響しています。大企業を意味する「Enterprise」に対して、「SMB」(Small & Medium Business)と呼ばれている領域で、いわゆる中堅・中小企業のことです。私はスモールビジネス愛が強いので、このあたりを話し始めると止まらなくなるのですが(笑)。
ぜひ、スモールビジネス愛について語ってください(笑)。
Googleでは、検索結果連動広告(アドワーズ)を中小企業向けにマーケティングする仕事をやっていました。インターネットは、これまで「規模勝負」だったマーケティングを開放し、スモールビジネスでも十分に戦える武器を提供した点で、革新的だったといえます。事実、アドワーズの最初の広告主は北米の小さなロブスター屋さんでしたが、これは非常にイノベイティブなことだと思うのです。
面白いデータがあるのですが、「日本の47都道府県中、ウェブサイトを持っている会社の割合が多い県ほど、1人当たりの生産性が高い」そうです。インターネットの活用度によって、生産性やGDPも変わってくるということです。日本企業のほとんどは中小企業ですから、ここに強いインパクトを提供できれば、大きな価値といえます。しかし、生産性を上げること自体はゴールではありません。日本をはじめとする先進国には、「この先のお手本」ともいえるロールモデルが無いので、「次にどうすればよいか」が分からない状態です。そうすると、イノベーションを起こすしかない。しかし、それは簡単ではありません。だとすれば、いかに生産性を高め、本質的なことに目を向けられる社会にするか、いかに「イノベーションが生まれやすい土壌を作るか」こそが重要になるはずです。freeeがバックオフィス業務を自動化することで、スモールビジネスがイノベーションの主役として、大切な業務に集中できるようになれば、貢献は非常に大きいのではないかと思います。
それに、プロダクトづくりの点でも面白さがあります。スモールビジネスの人たちに「これ、いいね」と言ってもらうためには、コンシューマープロダクトと変わらない作り方をしなければいけません。エンタープライズ向けのようなものづくりでは、ユーザーは使い込んでくれません。「使いやすい」とか、「分かりやすい」というのは当然のレベルで、「使っていて、気持ちいい」とか、「楽しい」といえるレベルでなければ、本当のファンにはなってもらえないのです。法人向けでありながら、B2C的なものづくりが求められるという意味で、いろんなセグメントの面白い要素を「総取り」できる感じがとても好きです。
B2Cに近いとすると、ユーザーからの要望をいかに早く反映していくかがカギになりますか。
実は、そうではないのです。最初のころはユーザーの要望を聞いたエンジニアが自発的にパッと直し、そのスピード感に高い評価をいただいていました。しかし、プロダクトの完成度が上がってきた最近では、それだけではダメだと思うようになりました。意識しているのは米国自動車メーカーのフォードの話です。「昔、人は車なんか欲しいと思ってはいなかった。単に、早い馬が欲しかっただけだ。」という話です。本当に何が欲しいかを、ユーザーが必ずしもわかっているわけではありません。個別のお客さんの御用聞きになってはいけなくて、「なぜその人は、それを必要としているのか」というところに立ち返って考えるべきです。そうすると、一見異なる要望に見えても、解決したい問題は一緒だということはたくさんあるわけです。そこまで深くユーザーさんのことを理解してから、プラットフォームとして良くなっていこうとすることが大事だと感じています。私たちのミッションは、「いかに、みんなが乗ってくれる船を造るか」ということなので、全員が抱える共通の課題を解決するベストなやり方を考えていかなければなりません。それは多分、ユーザーさん自身も分かっていないことかもしれないので、それを私たちが想像力を働かせて、問題を解きながらプロダクトを作り上げていくことが重要です。
解くべき問題の大きさが、モチベーションの源泉ですか。
解くべき問題の大きさよりも、「解くべき問題の本質感」を大切にしています。先ほど、「ユーザーからの要望」と「ユーザーが本当に抱えている問題」との違いについてお話ししましたが、場当たり的であったり、ユーザーの要望に反応的に対応したりするのではなく、「本質的な変化を作ろうとしているか」という視点が重要ではないかと思います。例えば、世界中にナレッジがバラバラに散らばっている状況で、それを効率よく使うためには、「どう分類しておくべきか」が重要だったわけです。それをGoogleが「とてつもなく速い検索エンジンを作ったら、そもそもそれは問題ではなくなる」という解決策を思いついたのです。これはパラダイムシフトです。それまで情報の持っておき方や、分類の仕方に知恵を絞っていたところを、根底から覆してしまったわけです。Gmailのアーカイブという発想もそうです。必要な時にすぐ探せるのだから、そもそも整理しておかなくていい。こういうインパクトをもたらせるかどうかが、私たちのモチベーションの源泉といえます。 >> 後編に続く