日本の成長企業

ブレインパッドの「これから」

株式会社ブレインパッド
代表取締役社長 草野隆史 氏

1997年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科(SFC)修士課程修了。サン・マイクロシステムズ株式会社を経て、インターネットプロバイダー関連事業の立ち上げに参画し法人営業と事業企画を担当する。「データマイニング&最適化」に特化した事業の起業を決意し、2004年ブレインパッドを設立。代表取締役社長に就任。2011年東証マザーズに上場。2013年東証一部に市場変更。近著に「顧客を知るためのデータマネジメントプラットフォーム DMP入門(共著、インプレスR&D)」がある。

ブレインパッドは言うなれば、日本初のデータマイニング専門企業ですが、まだ大量データ分析というマーケットが明確にあるのか分からなかった時代に事業をスタートされました。なぜこの事業を始めようと思ったのでしょうか。

株式会社ブレインパッド|代表取締役社長|草野隆史

創業当時は社会に役に立つ仕事をしよう、誰もやっていなさそうな領域で、ホワイトカラーの生産性向上につながるようなことができないか、というイメージで始めました。 大量データの分析はその中でも当時誰も着手していなさそうな領域でしたし、技術的に応用範囲が広く、将来的に受託の分析以外にもいろいろなサービスができそうだと考え、「世の中により多く、分析の価値を発揮しよう」と思い、ブレインパッドを創業しました。

マーケットがなかったというのは、創業当時はまだ日本企業にデータ分析の必要性が認知され始める前だったということでしょうか。

データ分析を重視するカルチャーがあまりなかったということもありますし、企業内にデータの専門家がいるケースも少ない時代でしたから、データに基づいた経営判断はできていない企業が多かったと思います。データ分析が重要視される前は、企業内でデータ分析の専門部署を継続的に持ち続けることも難しかったでしょうし、データ分析の担当者もジョブローテーションで変わってしまうのでノウハウが蓄積しないこともあったでしょう。

データ分析は比較的適性がはっきり出ますので、適性や意欲の有無によっても分析結果やその結果の活かし方に差があったのではないかと思います。また、大量データという意味では、昨今の「ビッグデータ」という言葉に代表されるように可能性への注目もなく、物理的にも蓄積されていませんでした。

なぜ日本では、データを活用して売上げを伸ばしたり、コストを再検討したりといった風潮がなかったのでしょうか。

正確には分かりませんが、1つ挙げるとすると、日本はSIerが強いですよね。海外ではSIerはそこまで多くありません。海外では、自社で使うシステムも、ある程度は自分たちで開発してしまうので、システムの設計構築や運用を全て外部に委託するということがあまりないようです。一方、日本がシステムを外部に委託している背景には、そもそもITは「差別化要因」というより「コスト削減」のためのもので、そこで強みを出すよりもコストがかからない方がいい、リスクは取らない方がいい、という発想があるように思います。

実際にアンケート結果などを見ていても、IT投資の目的は何かという問いに対し、業務コスト削減のため、というコスト改善の意識が、日本は諸外国に対して突出して高いのです。逆に、競争優位性の向上のため、というような攻めのシステム構築の意識は、日本はとても低いようです。よって、その先の、「ITを活用し貯まったデータを活用して差別化しよう」という発想も出てこなかったのだと思います。

日本でデータ分析が重視されてこなかったのは、ITに対する考え方以外の背景もあるのでしょうか?

そこには文化的な、あるいは市場環境という背景がありますね。マーケティング領域について申し上げると、日本ではボリュームゾーンに対してマス広告を打てば物が売れたという時代が長かったと思います。でも、例えばアメリカは、もう少し前から所得にも格差があったでしょうし、そもそも移民国家でかつ国土が広いので、ダイレクトマーケティングも発達していました。

ダイレクトマーケティングでDM(ダイレクトメール)を打つにしても、英語で送ったらいいのかスペイン語で送ったらいいのか、という問題も出てきますね。こういった背景から、海外の方がデータ分析に基づくマーケティングの必要性が高かったということが言えると思います。

マーケットを創り、データ分析の重要を世の中に証明してきたリーディングカンパニーとして、ブレインパッドが見据えている次の世界とはどのようなものでしょうか。

株式会社ブレインパッド|代表取締役社長|草野隆史

これについては、これまでの事業の変遷と併せて宍倉が説明していますが、今後は例えばデータ分析の対象をマーケティング領域からさらに広げていくことなどを考えています。私たちが追い付けないのはハードウエアや高度なソフトウエアなどの世界のグローバルな企業の方が強い部分です。その領域は大手企業が巨額を投じて作っていくと思いますので、我々が追い付けるとは思っていません。

一方で、分析というのはそれらを利用して実際にデータが存在している現場で実施する内容や、データ分析を使ってどんなビジネス課題を解決するかというところが一番大事です。そこに関しては、今後も弊社はいろいろな知見を積んでいる人間を集めていきますし、大手に遜色ない働きができるのではないかと思います。その領域で世の中に貢献したいと思っています。また、新たな取り組みとして、コンシューマ向けにレシートを利用したスマートフォン専用・家計簿アプリ「ReceReco(レシレコ)」の提供などもはじめています。

海外展開についてはどのようにお考えでしょうか。

分析に関して言うと、これまで海外では企業が自社内で行っていましたが、海外のトレンドを見ても、2018年までにデータ分析の先進国であるアメリカだけでも14万人~19万人ぐらいの分析官が不足する、という予測が出ています。そういう状況になると、国内外ともに全てを内製化することは現実的ではなくなりますので、ますますアウトソースの需要が出てくると思っています。

以前から、その状況に対して対応できるようなセンターを、日本以外の国で立ち上げることができたら新たな可能性もあると考えており、その第一歩として、中国・大連市に現地法人(博湃信息服务(大连)有限公司)を設立しました。また、今後、自分達が作ったASPサービスを海外に展開する、ということはあると思います。

内製かアウトソースかという観点は、まさに転職を考えている方にも共通する選択肢かと思います。実際に御社に応募して来られる方の中には、事業会社の中でデータアナリストをするか、もしくは御社でやるか、迷われるケースもあると思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

スキルを高めるという観点ですと、1社の中でずっと同じ商材やサービスを扱うよりも、弊社のような会社で幅広いサービスや事業に触れていく方が様々な経験が積めると思います。事業会社内ですと、特定の業界に関しては詳しくなりますが、ある程度施策は決まってきてしまうので、一定から先はルーティン業務になっていってしまうと思うんですね。

でも、データ分析の仕事を目指す方たちは、知的好奇心や探求心が強く、新しいものが好きな方が多いので、ルーティン業務になると恐らく飽きてきてしまうのではと思います。よほどの大きな権限が与えられたポジションであれば、データ分析の結果をいろいろと使って革新を起こすという醍醐味があるかもしれませんが、今の日本でそういったポジションを有している企業は多くないのではないでしょうか。ブレインパッドはデータ分析に関する業務しか行っていない会社なので、いろいろなデータに触れられるという点はお約束できると思います。

事業会社に行きたい人は「自社を伸ばしたい」という意識が強く、この意識は「外部からの支援だと最後までやれない。やらないので成果を実感できない」という体験に基づくように思います。御社がクライアント企業と関わる中で「外部からの支援ではありながらも一緒にその企業の事業を伸ばしている、成果を実感している」という時はありますか?

案件にもよりますが、単に業務だけを請け負うのではなく、かなり踏み込めていることが多いです。これには必然性もあったのですが、お客様の課題を解決する上で、分析だけをしていればあとはお客様側で全部進められる、というわけではなかったんですね。データを分析してみると、その次に分析結果をどうシステムに反映したらいいのか、ネット系に生かそうとするとどんな仕組みと連携すればいいのだろう、といったさまざまな課題が出てきました。

分析の価値を出すには、分析だけでは駄目で、それに基づくアクションが取られなければいけないのですが、そのアクションを我々と一緒に検討・実行しないと、お客様の中だけではうまく分析結果を使いこなせない、という状況がありました。

続いて組織についてお伺いしたいのですが、この先ブレインパッドをどのような会社にしていきたいとお考えでしょうか?

株式会社ブレインパッド|代表取締役社長|草野隆史

組織のあり方としては、ボトムというかエッジの方にちゃんとした権限や主体性、能力があるような組織を作っていきたいです。一人ひとりがお客様や社会の課題に触れて、このお客様はこういうことをしたいんじゃないか、こうしてあげたらいいのではないかと思った時に、その意見が社内で通りやすい組織を作っておきたいと思っています。

上層部だけに力を集中させてしまうと、例えば私の感覚が鈍っていたり、たまたまその時の気分で現場からのアイディアに「ノー」と言ってしまったりすることが発生しますよね。組織というのはこのようなつまらないことで、とても志の高い意見や重要な機会などが失われてしまったりするのだと思います。

リーダーはとりまとめ役として機能しているけれど、物を創り出す力や直観的なアイディアは現場の方がたくさん持っている、ということが私の理想なのです。1人当たりの生産性は上がっていないのに頭数を増やして組織を大きくしていくのは非効率だと思うので、「拡大ではなく成長」と言っています。 今後、データの活用はビジネスの現場で盛んに行われるようになると思います。そして、それは、大きな数個の課題というよりも、無数の小さな課題なのではないかと思っています。

そういった個々の顧客の様々なニーズに対して、柔軟に対応してビジネスを生みだせる組織形態であることがとても重要だと考えています。数少ない巨大な規模の問題を解決していくということで実現できる改善は、今後だんだん減っていくのではないかと思います。

そういう意味で、柔軟性のある組織を創る必要があると思っています。もともと私は、起業のモチベーションとして、そういう組織を追求したい、ということと、データ分析の普及、ということがありましたので、この2つはすごく相性が良いといいと考えており、ここから先は、どう会社を大きくしていくかがとても大きな課題だと思っています。

これからのブレインパッドにはどのような人材が必要だとお考えですか。

株式会社ブレインパッド|代表取締役社長|草野隆史

これまで同様、自分で考える人ですね。私は社員が働きやすくなるようなルールや環境の整備を進めていくつもりですが、そこで何をやるかは本人次第です。社長である私のやりたいことを実行するために人を集めるつもりはありませんので、やりたいことを自分達で見つけて創っていって欲しいと思っています。

私のやりたいことのために必要な人材を集めるのではなく、自分で何かを生み出したい人たちが集まってきてくれて、ブレインパッドでチャレンジをしてもらって、それがビジネスとしてうまくいったら最高に嬉しいことだと思っています。

データ分析に未来の可能性を感じていて、それを使ってビジネスやサービスを生み出したい、データを活用して世の中を良くしたい、と考えている人に集まっていただければ、楽しんでもらえる会社だと思っています。

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