弁護士ドットコム株式会社
代表取締役社長兼CEO 弁護士 元榮もとえ太一郎 氏
1975年アメリカイリノイ州生まれ。慶應義塾大学法学部卒業の翌年、司法試験に合格。2001年にアンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。M&Aを中心とした企業法務を担当。2005年にオーセンスグループ株式会社(現・弁護士ドットコム株式会社)を設立し、法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」の運営を開始。2014年12月に東証マザーズに上場。
弁護士ドットコムの事業について教えてください。
日本最大級の法律相談ポータルサイト、弁護士ドットコムを運営しています。弁護士を検索し、無料で相談できる、つまり、困っている人と弁護士をインターネットでつなぐというサービスです。「専門家をもっと身近に」という理念で運営しており、月間のユーザー訪問数は700万人を超え、そして弁護士の登録数は5人に1人を超える7900名以上のサイトになりました。お陰様で東証マザーズへの上場も果たすことができました。
以前、「ぼったくり居酒屋」が話題になったのを覚えていますか。悪質な飲食店が、ちょっと飲んだり食べたりしただけで法外な請求をする、というやつです。あのとき、弁護士ドットコムのユーザーさんにも似たような被害に遭った人が居たのです。「この金額、払え!」と詰め寄られているときに、スマホで弁護士ドットコムにアクセスして、「今こんなことで困っているのです」と相談したら、「分かりました、今すぐ行きます。」といって弁護士がやって来て、事なきを得たのです。もうそんな時代が来たのかと、同じ弁護士である私ですら感動しました。これは5年前であればあり得ない話です。
Uber(スマホですぐにタクシーを呼べるアプリ)みたいですね!
本当ですよ!すごいことです。私たちは一貫して「専門家をもっと身近に」という理念を掲げていますが、私が目標としてイメージしていたのは、あくまでも事前に予約したうえで弁護士に相談をするという「訪問弁護」だったのです。今は食材でも何でも、インターネットで注文すれば、すぐに自宅に届きますよね。介護士さんや看護師さんも訪問型になっています。「であれば、何日の何時と予約したら自宅に弁護士が来てくるという訪問弁護は便利でしょう?」というレベルで考えていたのです。
しかし、「今すぐ行きます」という「駆けつけ弁護」の時代になっているのを見ると、まるで救急車やセコムのようです。プロフェッショナルサービスという点ではまさに医者と同じレベルで、重要度は非常に高く、緊急性もあります。本人からすると「とても寝付けない」という悩みであったりするのです。そういった意味では、早めにサポートしてさしあげるという緊急性や必要性はありますよね。
私が弁護士になろうと思ったのは、大学時代に自動車の接触事故を起こしてしまい、保険会社を相手に交渉で苦労していた時に、弁護士に相談して救われたことが原体験です。まさに当時の私を、その場で助けられるようなサービスになってきたという手ごたえがあります。
どうやって収益を上げているのですか。
大きく分けて四つです。
- 弁護士マーケティング支援サービス
困っているユーザーが弁護士を探せるようになるということは、弁護士にとっても見込客を得ることが出来るということです。弁護士さんから月額利用料を頂き、マーケティングを支援するというサービスが収益の柱です。 - 有料会員サービス
月額300円の有料会員になることで、スマートフォン等のモバイル端末で過去のQ&Aコンテンツを閲覧できるようになります。(PCにてのアクセスであれば全て無料) - 広告収入
弁護士ドットコムは月間700万人のユーザーが訪れる一大メディアになっており、広告媒体としても成立しています。 - 税理士マーケティング支援サービス
「専門家をもっと身近に」という理念から、弁護士だけでなく税理士にもサービスを拡げています。
今でこそ、収益モデルが確立し始めているといえますが、創業後は何年間も赤字が続きました。最大の受益者である弁護士さんに、ずっと無料で使って頂いていたからです。つまり弁護士は無料で新規顧客の開拓ができていたということになります。
しかし、サイトを維持・改善し、ユーザーを増やしていくには非常に多くのお金がかかるわけですから、「収入はないが、支出はある」という状態を耐え抜く必要がありました。ただ、これは「世の中に絶対に必要なサービスだ」という確信があったからこそ続けられたことです。
私が法律事務所も運営していましたから、そこで上がった収益を弁護士ドットコムに投資することができました。徹底的に独占的なポジションを築くために、何年も耐え、満を持して有料化したのです。
「ネットで弁護士が依頼者とつながる」という弁護士の歴史にない新しいサービスを提供するベンチャーでしたから、まずは弁護士の先生方のご理解を得ることを最優先に考え、丁寧に実行してきたという感じです。
今後、弁護士ドットコムはどのように展開をしていきますか。新しい可能性についてもぜひ教えてください。
まず長期展望としては大きく二つのベクトルがあります。
1.既存事業の成長
弁護士市場は大きな成長市場です。2000年に6500億円だった市場が2010年で9500億円を突破し、年々伸びています。今後も相続の問題で弁護士の需要が拡大することが確実視されていますし、離婚問題のように個人的な問題についても、弁護士関与率が高まっています。私たちのサービスはまさに困っている個人と弁護士を結びつけるサービスを行っており、現在はありがたい事にオンリーワン的な立ち位置になっていますから、ここを徹底的に深堀していくつもりです。
2.新規事業の立ち上げ
ここはかなり大きなポテンシャルがあります。個人向けサービスと、法人向けサービスとそれぞれ新規事業があります。
■個人向け
具体的に着手するのは、「弁護士費用保険」という新たなマーケットです。「専門家をもっと身近に」が私たちの理念だと申し上げましたが、それを実現するためには心理的なハードルを下げるだけでなく、「経済的ハードル」を下げる必要があります。
弁護士が身近になったとしても、やはりハンドメイドな高額商品であることには変わりありません。本当は弁護士に相談すればスムースに解決できるものも、経済的なハードルで断念しているケースが多くあります。そこを解決したいと思い、「弁護士費用保険」の事業化を進めています。
弁護士の数が増えて、アクセスが身近になると経済的なハードルを下げるための保険が普及する、というのは世界的な流れです。ドイツでは世帯普及率42パーセント、イギリスでは人口普及率59パーセントというデータもあります。弁護士ドットコムは月間700万人のユーザーベースを持っており、メディアとしても確立し始めています。また、上場もしたことから、「弁護士費用保険」という新たなサービスを世の中にご提供できる絶好の位置に立っていると考えています。
■法人向け
「電子契約プラットフォーム」、言い方を換えると「クラウド契約書」の事業です。
経験者であればお分かり頂けるかと思いますが、契約書の締結実務はとても面倒です。紙でプリントアウトして、ホチキス止めして、製本テープを貼って、押印して、割印して、収入印紙を貼って、返信用封筒を同封して書留で郵送して、、、といったことが行われています。これだけデジタル化が進んでいる現代において、契約になると一気に昭和に戻ってしまいます..。これを解決したいと考えています。
プロセスをクラウド化して、やりとりも、弁護士のレビューも全てオンラインで行ってもらい、契約後も管理できるようになれば非常に便利です。契約更新時期や、有効期限をデジタルで管理して、自動的にアラートを出してくれたりするわけですから。そして大きいのは印紙代です。オンライン上の契約には収入印紙が不要です。現在、契約書に使われる印紙は約1兆円あるといわれていますから、コスト面でのインパクトもあります。
弁護士とお話しているというよりも、やはり経営者であり事業家であると強く感じます。元榮さんは普段、どういうものの考え方をするのですか。
もともと、ブルーオーシャン志向でして、徹底した差別化が重要だと思っています。「裾野が広ければ広いほど、高い山になる」と常に考えており、昔からそういった選択をしてきました。
さらに、成功した方の事例からヒントを得ることの重要性は身を持って感じています。例えば司法試験の勉強を始める前には、徹底して合格体験記を読んで戦略を立てました。そしていろんな人の合格までの軌跡を頭に入れたうえで、それを元榮流のイメージにして日々徹底しました。
経営にも近いものがあると思っています。敢えて広い範囲の記事や他社事例を読み込むのです。行きつけの喫茶店で音楽を聴きながら。そこは人の行き来もあってざわざわしているのですが、そんな中、同じ曲をエンドレスで流しながら色々な記事や事例に触れていると、脳が活性化されます。「これを弁護士ドットコムに持ってきたら、こうなるんじゃないか」といったことをずっと考えています。そうすると、あれも面白い、これも面白いといった感じでイメージがどんどんつながっていくのです。
成功事例や異業種の情報を広くインプットしながら、頭をフル回転させて、ユニークなものを生み出していることが多いかもしれませんね。
着眼点、ものの考え方、実行力など、弁護士ドットコムを生みだした元榮さんのベースを感じることができました。最後にメッセージをお願いします。
弁護士ドットコムは確かに上場企業になりましたが、ようやくスタートラインに立ったところであり、上場日の14年12月11日は「創業日」と言っても過言ではありません。新しい可能性をこれから生み出していくこのタイミングは、今から入社する人にとっても必ず成長の機会になると思います。
とにかく世の中をより良くするために、「オンリーワン」であるというポジションを活かして、新しい価値を提供していきたいと考えています。世のため、人のため、自社のため、この全てのベクトルを満たし得る、社会貢献実感を持ちやすいことを事業にしている自信があります。
それから、エンジニアの方へ。私たちは「リーガルテックカンパニー」を目指していきたいと考えています。
法律関連には、まだまだテクノロジー化できる要素がありますので、弁護士ドットコムはプラットフォームビジネスのみならず、テクノロジー企業としても、エンジニア、デザイナー、ディレクターといったIT系人材のみなさんと一緒に、大いに新しいものを生み出していきたいと考えています。
電子契約プラットフォーム、クラウド契約書の事業についてもシステムが極めて重要な事業ですので、優秀なエンジニアが新しいものづくりに関わるチャンスはいくらでもあります。エンジニアの方とはぜひ、これからの事業とテクノロジーについて話をしたいと思っています。
本日は、ありがとうございました!