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「宇宙からの給電は夢ではない」エイターリンクが描くワイヤレス給電が実現する未来

 

エイターリンク株式会社
代表取締役 岩佐 凌氏

千葉県流山市出身。2015年学習院大学を卒業後、岡谷鋼機株式会社に入社。大手自動車メーカーと自動運転や電気自動車向けのプロジェクトに従事。2017年に米国シリコンバレーにて現・代表取締役CTOの田邉勇二氏と出会い、2020年に同氏とエイターリンク株式会社を設立。

世界で初めて、実用化可能なレベルでの長距離ワイヤレス給電技術を提供

「ワイヤレス給電で配線のないデジタル世界を実現する」というミッションを掲げていますね。どのような事業を行っているのですか。

20240209-2ワイヤレス給電というのは文字通り、配線なしで電気や電波を供給できるということです。当社では10m以上の距離があってもワイヤレスで数mWの給電を行えます。今は、事業領域を「FAFactory Automation)」「ビルマネジメント」「メディカル」の3つとしています。

FA領域では、工場の生産ラインで使われるセンサーへ給電をワイヤレスで行います。これは非常にインパクトのあるお話なのです。たとえば、自動車の工場では毎分300万円相当の価値を創出していると言われています。もしアームの動作などで断線すると、場所を特定し、復旧するまでに約1時間かかります。これがどれだけの損失かはイメージしていただけるかと思います。これがワイヤレス給電であれば、断線は起こりません。どこかが故障したとしても部品の付け替えのみのため、短時間で復旧が可能です。ワイヤレス給電なら部品交換は10分で済むこともあります。それに、工場は日々生産計画が変わるのです。これまでA車を作っていたラインが、B車を作ることになる場合、1本で2030mもある複雑な配線を組み直すことになるので3時間近くかかります。他方、ワイヤレス給電ならこのような配線の組み直しの手間が大幅に軽減されます。配線がなくなり、ワイヤレスで給電できることは本当に大きなインパクトなのです。FAの生産性が飛躍的に向上するため、ニーズも極めて高いです。既に量産体制を組んで、まずは米国・カナダ・中国・韓国・日本から製品を同時に発売していきます。

FA領域におけるワイヤレス給電の価値がよく分かりますね。その他の領域の事業についても教えてください。

ビルマネジメント領域で分かりやすいのは、空調を通じた室内の温度管理です。空調というのは、コストの点でも快適さの点でもビルマネジメントにおいてとても重要なテーマです。通常、温度センサーはエアコンの吹き出し口や壁際に設置されており、設定温度との差がなくなるように空調の強弱を自動調整させます。しかし、センサーの位置が人の活動エリアと離れていると、実態がつかめず、誤った目標に対して空調が働いていることになります。そうするとエネルギーの無駄遣いが起こります。このような場面でワイヤレス給電は大きな力を発揮します。エイターリンクでは、まず天井に3~6m間隔で電力送信機を設置します。そして電力受信機を兼ねたセンサーを座席など人の近くに多数配置します。こうすることで空間全体かつ人の活動場所の細やかな温度管理が実現できます。大手デベロッパーと実証実験を繰り返すことで、従来の方法よりも最大26 %ほど電気代の削減が見込めることがわかってきました。日本での量産販売と米国での実証実験を開始し、今後はヨーロッパなどの海外市場でも販売を予定しています。ビルマネジメントだけでなく、物流やリテール領域にも展開しうると考えています。

メディカル領域では、ワイヤレス給電でどのようなことが可能になるのでしょうか。

実は、起業のきっかけとなった技術が最初に形になったのは、メディカルインプラントデバイス(埋め込み型医療機器)でした。共同創業者でCTOの田邉は米国スタンフォード大学工学部の助教として、マイクロ波技術の応用研究に取り組んでいました。そこでワイヤレス給電による「米粒大の心臓ペースメーカー」を実現したのです。これは従来の1000分の1サイズです。これまで開胸手術をして植込まれていましたが、米粒大なら足の付け根からカテーテルを使って心臓に直接植込むことができます。なぜ米粒大にできたかというと、ワイヤレス給電によってバッテリーが不要になったからです。これまではバッテリー交換のために定期的に手術が必要でしたが、これも不要になりました。この技術の発明のインパクトは大きく、Nature MethodsPNASの表紙も飾りました。

この価値あるワイヤレス給電技術を広く産業に応用しようと、2020年に田邉とともにエイターリンクを創業したのです。メディカル領域での実績があることの自信や信頼は絶大です。心臓のペースメーカーは絶対に止まるわけにはいきませんから。

3年半で80以上の重要な特許を出願。ワイヤレス給電業界のリーダーに

エイターリンクの技術的優位性はどこにあるのですか。

20240209-95まず、電気とは電子が移動する現象であり、通常は金属などの導体をつたって流れていきます。マイクロ波を使ったワイヤレス給電では、電流を電磁波に変換して電力伝送を行い、これを受電側の整流回路で直流電流に変換します。実は、こうしたコンセプトで120年以上前にニコラ・テスラが、雷発生装置で40km離れた電球の点灯実験を成功させましたが、当時は実用には至りませんでした。これを現実的なものにしたのがエイターリンクで、その技術の核は、電波のエネルギーを効率よく電気エネルギーに変換させる点にあります。送電側ではなく受電側で、遠く離れていても微弱な電気エネルギーをうまく取り出せるというのが技術革新で、これはエイターリンクが最初に取得した最重要な特許です。

そのほかにも、アルゴリズムやアプリケーション関連などでも重要な特許を8件取得しています。今後も優先順位をつけてビジネスの要となる特許を取得いくので、世界のワイヤレス給電業界における特許取得No.1企業になっていける手ごたえがあります。

競合となる企業はないのですか。グローバルでの勝算は?

ワイヤレス給電にはいくつかの方式があります。スマートフォンやEVの充電で使われている「電磁誘導方式」は安定的ですが、距離が離れると効率が大幅に低下するので用途に限界があります。長距離間でワイヤレス給電を試みると「マイクロ波方式」か「レーザー方式」となりますが、レーザーは安全性に難があります。エイターリンクはマイクロ波方式で技術的な優位性を持っています。他社は給電できる距離が15センチや50センチにとどまるなど、性能が段違いなので、競合になり得ていないのが現状です。現状ではブルーオーシャンですが、この事業は、wi-fiなどと同じで、インフラの面取りを行うビジネスですので一切油断はしていません。開発および事業推進のスピードが肝要です。2031年には宇宙で太陽光発電したエネルギーの給電を実現するところまでを見据えています。

インフラになり得るということですが、国などによる法整備や規制はないのでしょうか。

実は、起業したときには日本で法律すらなかったので、ワイヤレス給電そのものが使えない社会でした。しかし、地道なロビー活動などによりルール作りを強く働きかけてきた結果、現在に至ります。グローバルにおいては、国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU)が無線通信と電気通信分野で各国間の標準化と規制の確立を図っています。昨年ドバイで開催されたWRC-23(世界無線通信会議)ではエイターリンクのメンバーも日本を代表する一員として国際会議に出席しています。その場でもワイヤレス給電の重要性を訴え、国際標準規格を制定するための議論が進められることが決まりました。この粘り強さや、できそうにないこともあらゆる方向から考え抜き、何とかしてやり切るというのが、エイターリンクのカルチャーなのです。

世の中を変えるために、ワイヤレス給電を使う

今後の事業展開の方向性や目指す姿を教えてください。

20240209-69私は、スマートフォンがデジタル信号処理の究極形だとは思っていません。究極的なデジタル化とは、デバイスと脳の一体化です。現在田邉が最先端の研究として、アルツハイマー病の解決を目指してBMIBrain Machine Interface)の研究を行っております。アルツハイマー病は、脳の短期記憶から長期記憶に情報伝達ができなくなる病気です。この研究では、デバイスにメモリをつけて、短期記憶で蓄えた情報(電気信号)をデバイスに保持させ、取り出すアプローチにより、アルツハイマー病の解決を目指しています。

このデバイスをインターネットに接続したら、脳がインターネットにつながり、インターネットの情報が脳内に入れられる、それってスマートフォンとやっていることは何も変わらないと思っています。

いきなりは無理ですが、たとえば一歩手前の段階としてスマートコンタクトレンズをステップとすれば可能でしょう。さらにもう一歩手前では、ビルマネジメント領域で、この空間の温度が何度なのか?何があるのか?ってアナログの情報で、デジタル化されてないと思います。たとえばデスクに1日放置したペットボトル飲料が飲めるかどうかを、ワイヤレスセンサーでバクテリア量を測定すれば判断できるようになります。

また、ノートパソコンの給電も理論的には可能だと思いますが、それではワクワクしないし、価格競争に陥るのがオチです。既存市場の中でアドオンの価値提供をするだけではイノベーティブではありません。新しい市場を創って、そこでの主要な要素技術としてワイヤレス給電が適用されていくことが事業展開の上で重要です。

たとえば、リチウムイオン電池が世に出た当初は誰も使おうとしませんでした。高出力ですが、爆発の危険性があったからです。そのリスクを超えて最初に使われたのがハンディカム(デジタルビデオカメラ)です。バッテリーに求められる容量が大きいが、何とか小型にしたいというニーズに対して、リスクがあっても新しいテクノロジーに挑戦したいというマインドがあって、ようやく新しい技術がマーケットフィットしていったのです。

ワイヤレス給電にも同じことが言えます。この技術の本質を理解して、人類の歴史の進化を自分なりに予測したときに、「こんな風に使えるのではないか」と考えていきたい。そういう姿を目指したいですし、そういう人と一緒に働きたいですね。

プロダクトアウトとマーケットイン、どちらを意識していますか。

ディープテックの事業はやはり、まずはその技術ありきで考えるのでプロダクトアウトになるものです。しかし、それだけでは面白くない。たとえば脳内のBMIインターフェースとインターネットを接続しようといった取り組みは、プロダクトアウトでは生まれません。薬では治らないアルツハイマー病を何とかしたいという強いニーズがあるから、可能性が芽生えるのです。そして社会的に倫理規範が形成されていけば、脳内のインターフェースというものが認められ、社会を変えていくでしょう。

スマートコンタクトレンズも同じで、いきなり世に出しても直ぐには受け入れられないと思います。そのため、たとえば弱視者の歩行アシストや、工場作業者のVRグラスでの作業アシストなどに活用することで、スマートコンタクトレンズの社会的意義を高め、活用の場を着実に広めていくようなアプローチが、マーケットフィットさせるには必要です。

ディープテックでも、マーケットインのアプローチを意識することで、可能性や世界観が広がるのですね。

そのとおりです。もう1つの観点として、ワイヤレス給電はあくまで手段であり、この技術だけを欲しているマーケットなんてたぶんありません。そこに対して、もう一段抽象度を上げてあげることがとても大事なのです。

たとえば、ビルマネジメントにおける、温度センシングを人の近くの複数点で取得して空調機と連携させるという取り組みは、竹中工務店や三菱地所とともに実証実験を行ってきましたが、彼らが直接ワイヤレス給電を欲しているわけではありません。こうしたシステムが欲しくなるところまで抽象度を上げる必要があったのです。つまり、プロダクトアウトの発想でありながら、マーケットインの考え方でもあるのです。こんな風にビジネスのペイン(痛み)ポイントを探し、解決策を提供していくことで、ワイヤレス給電の事業展開が進んでいくのだと考えています。

世の中を変えるなら、今

エイターリンクではどのような人と一緒に働きたいと思われますか。

20240209-104まず大事なのは、クリエイティブな思考です。エイターリンクの本質的な企業価値なので、仲間となる人も創造的であって欲しいです。スティーブ・ジョブズのいう「Think Different」や、「Out of the box」といった価値観がとても大事だと思っています。独創的、前衛的に、前人未踏の道を切り開いてユニークなことを考えられる人は、当社にものすごくフィットすると思います。さらに、多様な考え方の人が集まり、互いをリスペクトし合えることが重要ですね。

そして目指す理想が高いだけに、よく働き、よく遊ぶことも大切です。遊び心を持ちながら働けるような人がマッチするのではないでしょうか。多少の失敗は恐れず、周りも認め合うような風土なので、生みの苦しみを一緒に楽しめるとよいと思います。また、自分がやっていることは社会のためにつながっているという意識も大事です。自己成長やキャリアのためだけにやるのではありません。そんな矜持を持ちながら、ユニークなメンバー同士で未来を目指したいです。

岩佐さんの価値観のベースにあるのは何なのでしょうか。

いろいろな原体験によって形成されていると思います。たとえば、中学で野球にのめり込んでいたときに幼なじみから、「勝利へのこだわりも大事だが、仲間を大事にすることも大事」と言われたことが1つ。また、大学受験では2浪したのですが、ただ努力するだけでは結果は出ないと痛感し、現状を客観的に見て適切なアプローチのし方を考えたり、物事の裏側までを深く考えるようになりました。

さらに前職の商社時代に、米国駐在で「人と違うことにこそ価値がある」という考え方に触れたのも大きかったです。そのなかで、素晴らしいテクノロジーも、世の中に価値を還元できなければ意味がないと思うようになり、起業につながりました。人類の進化において、世の中の生産の総量が上がるときには必ずテクノロジーが寄与しています。私も自身で事業を行い、テクノロジーで世の中を良くしたいと思いました。これがエイターリンクのコアにある考えです。

最後に、エイターリンクに「今」、ジョインする意義や面白さを教えてください。

FAやビルマネジメント領域で、受注が多数入っており、製品として当社のワイヤレス給電によるソリューションが世の中に次々と提供されていくタイミングです。グローバル展開も始まり、まさに青春ドラマの1ページのようにフレッシュで勢いのある日々を送れると思います。数年後に、「あの時、あそこにいたんだ」と思えるような歴史の潮目が今なのだと思います。ワイヤレス給電というとてつもなく大きなインパクトを持つテクノロジーをキーにして、一緒に新しい価値を生み出していきましょう。

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